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2.13(sideN) ページ25

サトシさんは、胡座をかいて、モゴモゴとバナナを食っていた。

綺麗な少年が、釣堀にいるオッサンに見えてくる。

「あ、うま」

もらったバナナは、今まで食べた中で群を抜いて美味だった。


しばらく、2人無言でバナナを食った。
熱気と湿度で人間にはいささか不快に感じるかもしれない室内が、なぜか居心地よく感じた。

特に話すこともせず、鮮やかにパレットがひっくり返されたような色彩溢れる植物たちを眺めていた。

薄紫色のクリオネみたいな形をした花に止まっていたアゲハ蝶が、音もなく空…天井に向かって飛び立つ。

オウムのような鳥が羽根を震わせ枝を揺らす。
音、色、匂い、形……全てが夢幻のようだった。

ふと、かなりの時間をここで費やしたことに気づく。
制服のポケットからスマホを取り出し、起動させると、もうすぐ侵入開始から45分が経過するところだった。


侵入先で、見つかってしまったけれど。この人は口外しなそうだし。騒ぎになる前に退散した方が良さそうだ。


入口付近で見張りをしている翔さんも気を揉んでいるだろう。


「おじさん…じゃなかった、サトシさん。俺、そろそろ戻ります」


立ち上がり、ズボンをはたく。

「んー」

サトシさんは、俺の手からバナナの皮を受け取ると、一緒に立ち上がった。


「あの」

「?」

「また、来てもいいですか。あー、また、松本さんがいない時に。……できれば」



サトシさんは、一度目を丸くして俺を見つめた後、先程までの気の抜けた空気をまとって、頷いた。


「またな、和」


まるで友達みたいだなー、と苦笑する。
……それから、名前を覚えてもらえたことに気づき、くすぐったい感じに笑みがもれる。


「じゃ、また。たぶん、1週間後に」

サトシさんをビニールハウスに残し、足早に階段を駆け上った。

最初のヨミ通り、入館に比べて退館は気軽なものだった。
パスワードの認証なく、ICを翳すだけで自動ドアを抜け、ロッカールームで着替えを置き、靴を履き替えた。

エレベーターもICだけで作動し、薄気味悪い真っ白な通路を走り抜けてドアを開けると、
心から安堵した表情をした翔ちゃんが待っていた。

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作者名:えりんこ
作成日時:2014年5月29日 12時

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