【銀魂】いいですか、沖田さん。

56.重りを海に沈める ページ6

「……あ、」

「あ、……」



濡れた隊服のまま、屯所に戻ってきて。

予期せぬ形で私を出迎えたのは、久しぶりに顔を合わせる沖田さんだった。

ぎこちない沈黙が酷く居心地が悪い。

どうやら沖田さんは、これからどこかへ向かうところのようだった。



「……何で濡れてんだ」

「アクシデントが、あって」

「攘夷志士か？」

「いや……、至って平和なことですよ」



顔が見れない。

今までの距離感が嘘のように、私たちの間には壁がある。

線引きがある。



「……もしかして、」



そう言われたときの感情は、きっとしばらく忘れることが出来ないだろう。



「彼奴か？」

「彼奴、って」

「俺がよく行く団子屋の」



ぎし、と胸の奥が軋む音。

……出て来ないで、来ないで。



「…そうです、よくわかりましたね」

「俺もやられたことあるんでィ」



視界の端に映るその顔を、これ以上見ていたくなくて。

目線を逸らして、沖田さんの横を通り過ぎようとする。



「……A、」



構わないで欲しい、話しかけないで欲しい。

けれど願いは届かない。

すれ違いざま、腕を掴まれた。

顔を見ない。顔が見れない。



「何かあったか」

「……あるじゃないですか、頭から水被ったり」

「そうじゃねェ」

「じゃあ何だって言うんですか」



こんなことを言いたいわけじゃない。

突っぱねるようなことをしたい訳じゃない。

なのに口をついて出るのは、私が望まない言葉ばかり。



「…草間に何かされたか」

「…………そんなわけ、」



何故ここで草間さんが出てくるのか。

関係ない。草間さんは関係ない。



「……沖田さんには、関係ないです」



沖田さんの顔は、最後まで見れず終いだった。

無理やり掴まれていた手を振り払って、屯所に駆け込んだ。

振り払った手には、力が入っていなかった気がする。



(……なんて、自分勝手な)



自分自身に腹が立つ。

全て自業自得だ、わかっている。

何もかもわからないふりをして、こういうところはわかっている。



(……身勝手だ)



今更だ。

今まで忘れていたかのように、濡れた隊服が冷たく重く感じる。



(……苦しい)



知りたくなかった。

着替えを取りに、自室へ向かう足が重い。

沈んだ気持ちが浮上することはない。

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