58.案外単純な生き物 ページ8
「こんにちは」
「あ!Aさん!ご無沙汰してます!!」
例の団子屋、例の彼女。
満面の笑みで邪気のない瞳を向けてくる黄川さんに笑みをひとつ返す。
「今日はお茶、あったかいものを零さず頂けますか?」
「勿論です!」
どん、と自分の胸を叩く快活な彼女。
いい子だな、と思った。
「三色団子、1本ください」
「かしこまりましたー!」
ぱたぱた、と店の中へ消えていく黄川さんの背中を見てから、店の表に出されている休憩所のような長椅子に腰掛ける。
ふう、と息を吐いた。
目の前の通りには、まばらに人々が歩いている。
「お待たせしましたっ」
まずはそろり、と傍に湯呑みが置かれる。ちゃんと湯気が立っている。
それから三色団子が運ばれてきた。
「……ここは、他に真選組の人は来たりするんですか?」
さりげなく、黄川さんにぽんぽんと隣を叩いて見せる。
きらりと嬉しそうに瞳を輝かせて、私の隣にすとんと腰を下ろした。
「まあ、ぼちぼちって感じですかね。顔と名前をちゃんと覚えてる人はひとりしかいませんし!」
「その人は、常連さんなんですか?」
「そうですね!しょっちゅう来てくれます」
「……ちなみに、お名前は」
「Aさんがよく知ってる人ですよ」
ふふ、と笑顔を魅せられて、どきりと鼓動が大きく鳴る。
「…………沖田さん?」
「正解です!ぴんぽんぴんぽん!」
にひひ、と歯を見せた笑顔が可愛らしい。
黄川さんは、私と同年代か、年下なのだろうか。
「沖田総悟さんは、いろんなお話をしてくれますよ!局長がどうたら、副長がこうたらって」
「…へえ」
「昨日こういうことがあって、だから今日は、みたいなお話、よく聞かせてくれます」
「……そうなんですね」
私と距離を置いて、何も話さなくなってから、沖田さんは別の人に同じようなことをしていたのか。
……その役目は、元々私のものだったのに。
悔しい、寂しい、羨ましい。
どう頑張っても、今の私の手には入らない。
ぐ、と見えないところで拳に力が入っていた────けれど、その一言は、私をきょとんとさせた。
「だから、Aさんのお話もよく聞きますよ」
「……私の?」
「はい!間違いありません!」
どや、と見せられる顔に、うっかりぽかんとしてしまう。
沖田さんが、私の話を?
元は私にあった役目を他の人にバトンタッチさせて、けれどその相手に、私の話?
……どうしよう。
嬉しくて仕方ない。
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乙愛 - 吉沢亮さん、良すぎですよね……。ほんと、沖田さん…。現在1番好きな役者さんです。 (2019年2月11日 10時) (レス) id: 6dafc5383a (このIDを非表示/違反報告)
乙愛 - お疲れ様でした!最後の写真みてみたいです…/// (2019年2月11日 10時) (レス) id: 6dafc5383a (このIDを非表示/違反報告)
ののこ(プロフ) - 毎回更新を楽しみにしていました。終わってしまって寂しさもありますが、素敵な小説に出会えて良かったです。ありがとうございました! (2019年2月10日 1時) (レス) id: c2027c837f (このIDを非表示/違反報告)
sachoco(プロフ) - とても素敵な作品に出会えて幸せでした。ハッピーエンドでとても嬉しかったですし、完結した寂しさの反動も大きく、それ程この小説にハマっていたのだと思います。本当にお疲れ様でした!(実写版沖田さん…本当に完璧と言わざるを得ない程素敵だと私も思いました!) (2019年2月8日 19時) (レス) id: 6ffe0b9ea7 (このIDを非表示/違反報告)
春先未(プロフ) - お疲れ様でした…本当に面白く更新を楽しみにしていた作品だったので終わってしまい寂しさ半分、素敵な作品と出会えたという幸せな気持ち半分です。とても素敵な作品をありがとうございましたm(_ _)m (2019年2月8日 18時) (レス) id: 948ea5509c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:木ノ嶋 | 作成日時:2018年12月14日 8時