【あんスタ】愛を零してマルグリット【合作短編集】 (ページ18)

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目の前にぎらつく柘榴の双眸も、艷めく漆塗りの髪も、透き通る白肌も、全てに見覚えがありました。それは間違うわけもなく、私が愛した彼でした。

「これは夢か、それとも呆れた現世の浮世か。……くく、そうも惚けた顔をされては流石の我輩も照れるのう」

彼、『朔間零』はlive2dのままに肩を揺らして伏し目に笑いました。しかし紛うことなく目前の彼に、モニターも吹き出しも存在しません。

「さくま、れい」
「そうじゃよ。おぬしが一番愛する男じゃ」
「うそ……！」
「いきなり嘘と決めつけるのは不躾じゃろうて」

それだけ言って、朔間零が温度のない手で私の手を取ったとき、寝室に無いはずの突風を感じ、ぶわっと舞い上がるピンク色の吹雪に思わず固く目を閉じました。身を固くした私の不安に呼応してか、握る手が離れて力強く私を丸ごと包みました。

匂いも、温もりも、ふわふわして何もわかりません。

「嬢ちゃん」

でも、すぐそこに聞こえるその声は絶対に朔間零で、相変わらず逃避を続ける私は頑なに目を開けられませんでした。

「……現実逃避は構わんが、どうか我輩の声からは逃げないでおくれ」
「うん」
「我輩は、いつも嬢ちゃんの力になりたいと思っておるよ。つらそうな顔で会いに来る、愛しいおぬしの力に」
「うん」
「……いつも、ありがとう」

ああ、ただの推し、なのに。存在しないのに。
朔間零が何故か私のことを理解してくれているのが嬉しくて、決壊した私の器は徐々に癒えていきました。

ふわりと軽くなる心地に、私はだんだんと微睡み始めた。

「お疲れのようじゃ。おやすみ、嬢ちゃん」

髪の間を滑る指と、朔間零の声が、唯一私の意識を繋ぐ細い糸でした。

「……寝たくないよ」
「いつまでも乙女を付き合わせるわけにはいかないからのう、それにまた会いたいときに会える」
「いかない、で」
「我輩はどこへも行かんよ。知っておるじゃろう、いつも嬢ちゃんの傍にいることを。だから安心しておやすみ」

――良い夢を、嬢ちゃん。

・

目を覚ましたときにはもう昼間で、私はいったい何時間寝ていたのかわかりませんでした。
何も、わかりません。あの夢の真偽も、彼に会えた理由も。ただ、身を包んだ彼の腕と、髪を撫でた指、眠りを誘った心地好い声、そして軽くなった不安感が、やけに現実らしかったのです。
端末には変わらずいつも通りの朔間零がいました。

果たしてその夢、春の嘘だったのでしょうか。