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喫茶店を出ると、道路を渡り、それからすぐに細い路地に入る。
前を行く男の背中を、わたしは無心で追った。
春の気配を孕んだ風が吹くたびに、ふたりの髪がさらさらと揺れる。
「いけない子やな」
ビルとビルの狭間に伸びる陽だまりのなかで、彼はふと足を止めた。
そうして振り向き、いけない子やな、とひとこと。
もっと聴きたい。
そう思った。
このひとの声を、言葉を。
その唇がこぼすものすべて。
「名前は？」
「・・・A」
わたしはほんとうに、すこし気が狂っていたのかもしれない。
「A、おいで」
名を褒めるような科白を並べることも、自らを名乗ることもなく、彼は言った。
余計なものが１ミリたりともくっついていない。
美しい唇が放つものは、やっぱり美しいのだと思った。
どのくらい歩いたか。
数分だったかもしれないし、数十分だったかもしれない。
今のわたしに時間の感覚などまるでなかった。
さっきまでは喫茶店で、あんなにも退屈を持て余していたというのに。
彼が次に足を止めたのは、薄汚れたビル街の片隅の、地下へと伸びる階段だった。
何も言わず、小柄な背中はそこを降りていく。
わたしは今さら、すこし怖気づく。
すぐそばには『B1:club’Ton』の文字。
Ton
わたしはそれを、どう発音するのかわからない。
男について階段を降りた先には頑丈そうな鉄の扉があり、まるで統一性のないステッカーがべたべたと何枚も貼られていた。
おとぎばなしのお城のそれのような、ギイ、と重い悲鳴を上げて、扉が開く。
中は予想外に清潔な空間だった。
アロマのような甘い香りに、ほんのりと煙草のにおいが混ざっている。
まずはバーカウンターに目が行き、その次に天井のミラーボール、がらんとして広いフロア。
そして、最奥のステージ。
そのステージに、男がふたり立っていた。
遠目でも、全体的にきれいなつくりをしている。
ちいさな頭に整った顔、すらりとした手足。
ふたりはドラムセットの前でギターを抱えていた。
それぞれが形のちがうギター。
ふたりはわたしたちが居ることに気づいているのかいないのか、それを掻き鳴らすことをやめない。
やわらかな和音がわたしの足首を雁字搦めにし、メロディアスな高音が脳天に突き刺さる。
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べに(プロフ) - ココナッツさん» うわあああああココナッツさん！ありがとうございますわたしも好きです(T T) (2018年3月14日 18時) (
レス) id: c68c31e30a (このIDを非表示/違反報告)
ココナッツ(プロフ) - うわああああべにさんっ！うわああああ…(ワケわからなくてごめんなさい、汗)…好きですっ！ (2018年3月14日 15時) (レス) id: d0c3580366 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：べに
| 作成日時：2018年3月13日 0時
