検索窓
今日:1 hit、昨日:0 hit、合計:790 hit

5話 ページ5

シンドリアから矢継ぎ早に届く書簡を私は直接見ていないが、恐らく貿易停止への抗議だろう。
暗黒大陸に位置するシンドリア王国は近隣諸国らしいものがないから、あの国を支えるのは貿易だ。いくら七つの海を制した王の国とはいえ金が無限にある訳でもない、常夏の孤島の珍しい特産物を輸出して国庫を潤し、国内で補えない数多の物資を輸入に頼っている。どの国の経由地ともなる海洋国家のバルバットはあの国にとって命綱に違いなかったのに。
どうして王はこんな決断をしたのだろう。

貿易停止なんて決断はあの国への恩情だけでなく、この国の利潤を蔑ろにするようなものだ。

「おい!どうなってんだ!」
「貿易船が入ってこないなんて聞いてないぞ!!

今港で起きている混乱は、国内の情勢を凝縮したようだった。シンドリアから頼んでいた品が入ってこないと、国内のみならずバルバットに停泊中の各国の商人達が怒りを露わにしている。
それが国の決断とあれば、事情を文官が説明せざるを得ないわけで。
文官として港の混乱の収束に私もまた向かわされたが、国王の決定した貿易停止はもちろん誰にも納得されるはずがなく、事情を説明する度に市民の怒りは増す一方で、小競り合いにすら発展する。
いつしか港に派遣されるのは文官の数よりも武官の数が増えていた。とうとう街の壁にはこれが国民の声だと言わんばかりに大きく力強く『王政打破』の文字が書かれていた。

「マリアムが王に意見した時はヒヤヒヤしたけどよ、お前がどんなに正しかったか……」

やつれたように言うのは、あの時王に歯向かう私を止めた武官だった。その額には市民に石を投げられたのか、切れた傷が出来ている。

「大丈夫?手当するから動かないで」
「いいよいいよ、どうせ夜にもまた怪我するんだ。昼間は商人、夜は霧の団ってな。こんな安月給じゃ割に合わねぇよ」

冗談っぽく笑う彼に胸が痛んだ。

「全部落ち着いてくれればいいのに…」

商人の不満は既に頂点に達している。

そして、この混乱を聞き付けてか各国へと繋ぐ定期船の欠航、廃便が静かに増え始めていた。治安の悪い国だと、渡航を危険視されているのだ。その流れは、海洋都市国家として栄えてきたはずのこの国の強みが瓦解していくようにも見えた。

6話→←4話



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (5 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
7人がお気に入り
設定タグ:マギ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

あまね(プロフ) - すきですすす (10月11日 20時) (レス) @page6 id: 2b125e9969 (このIDを非表示/違反報告)
むす(プロフ) - eggちゃんさん» 暖かいお言葉ありがとうございます!またマギにはまって書き始めちゃいました😂以前と少し系統が違うかもしれませんが、楽しんで貰えたら幸いです‼️ (2022年2月14日 1時) (レス) id: 1e945b1125 (このIDを非表示/違反報告)
eggちゃん(プロフ) - むすさんの新作待っていました!!お身体に気をつけて更新頑張ってください! (2022年2月7日 18時) (レス) id: e88a2b5ecc (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:むす | 作成日時:2022年2月5日 1時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。