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4話 ページ4

「おーい、マリアムさーん?」
「……」

ふわっとタバコの匂いが香って、ソファーが軋む。
ベッドに居た兄が、私に痺れを切らしてソファーに座ったのだ。それでも意地を張って顔を上げないでいると、今度はわしゃわしゃと大きい手が頭を不躾に撫でてくる。

「おおすげー、よく絡まねーなぁ」
「やめてってば」

髪で遊び出す手を払い退けた。

「もう編まねぇの?」
「ドレッドはもうしない」
「へえ、マセやがって。一緒がいいって言ってたのに」
「記憶にないわ」

なんて見えを張ったが本当は覚えている。
憧れの兄の編まれた髪がかっこよく見えて、昔は駄々をこねて編んでもらったのだ。おもちゃも娯楽も何も無いスラムの生活だったが、兄の編んでくれたお揃いの髪は唯一の私の宝物となった。
が、それも昔の話。いざ自分の髪になると洗いにくいし絡まるし重いしで、憧れよりも苦手意識が勝った。

「で?ドレッドよりやな事でもあったのか?」

そう聞く兄の声は子どもを慰める様に優しかった。
わしゃわしゃと雑に撫でていたくせに、頭を滑る手つきはゆっくり丁寧なものになる。
昔から私を慰める時はこれだ。兄のこれを前にすると隠し事が出来なくなるのを、多分兄も知っている。

「…私ね、今日失敗しちゃった」
「そうか」

苦い思いに、兄は何も言わず聞いてくれた。

「文官として、止めなきゃいけないことがあったの。皆がこれ以上貧しくならないように、結構頑張ったの」
「うん」
「でもね、無駄だった。シンドリアとの貿易が終わっちゃう…」
「お前のせいじゃないさ、お前はよく頑張ったよ」

兄の手は戦ってばかりなせいかマメが出来て硬いが、撫でられ続けるのは心地良かった。兄の前では不安が薄れていくよう。いつも私に安心をくれるのは兄だ。
でも微睡む頭には、この国の荒れた状況が蘇る。

「どこの市場もどんどん品薄になってるのに、どうなっちゃうのかな…」
「なあマリアム、この国は俺達をとっくに見放してんだ。そんなの、お前も分かってんだろ」
「うん、だから、兄さんみたいに皆の為になにかを変えたかったの。
でも私は、兄さんみたいに出来ない。何も変えられない」
「…マリアム」

幼い頃から何も変わらない。憧れの兄の背中を追いかけて、いつも自分には出来ないと悟る。

「私、なんの為に文官になったのかな。彼も城には居ないし。アリババは、どこ行っちゃったの?」
「……さあな。どっかで元気にやってんじゃねーの」

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あまね(プロフ) - すきですすす (10月11日 20時) (レス) @page6 id: 2b125e9969 (このIDを非表示/違反報告)
むす(プロフ) - eggちゃんさん» 暖かいお言葉ありがとうございます!またマギにはまって書き始めちゃいました😂以前と少し系統が違うかもしれませんが、楽しんで貰えたら幸いです‼️ (2022年2月14日 1時) (レス) id: 1e945b1125 (このIDを非表示/違反報告)
eggちゃん(プロフ) - むすさんの新作待っていました!!お身体に気をつけて更新頑張ってください! (2022年2月7日 18時) (レス) id: e88a2b5ecc (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:むす | 作成日時:2022年2月5日 1時

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