160.5話 早まった痕跡 ページ45
*
ナターシャさんの机を覆う資料の量は膨大で、それは床にも及んでいた。屈んで拾い上げれば、抱えた腕には重みが伸し掛る。
「何調べてたんだろーね?」
「知りませんよ!そんなのどーでもいいです!!」
言い放ったシュウさんは、約束をはぐらかされた事に相当怒っているらしい。エマも押し付けられた後片付けに口を尖らせている。それでも皆手は止めなかった。
だけどこうも多いとなると、エマでなくとも気になる。あの人は何を頼まれ何を調べていたんだ。
偶然手に取った本は、
「世界地図…」
ルトノフの事だ、意味するのはどうせあの"葉巻"だろう。未だに"架空の故郷"を本気にして探してるのは本人よりアイツの方らしい。
だがそんな場所、暗黒大陸でも無い限り存在しない。本人に言っていないが俺も一度、主要都市から農村まで記録のあるあらゆる地名を全て洗った事があった。
「ナターシャさんも大変ですよね、別の国見たり会議の資料見たりさ?」
ほら、と振り返った俺にエマは資料を開いてみせる。
過去の会議の記録だった。これもルトノフが頼んだのか?
一度手を開け、興味本位でエマの広げる資料を空いている机に置いて眺めた。その記録の細かいこと、誰が何を言ったか一言一句まで記載されている。となると、ボイコットを決め込んだ日の朝議記録は恐ろしいな。
ページを捲るも全て代わり映えのない記録ばかり。
「この資料の何探してるかシュウさんは聞いていないの」
「知らないです、臨時会議のページ探すのは手伝いました」
「…臨時会議」
その時、僅かだが確かにアイツは囁いた。
だが振り返ると、キョトンと不思議そうに黄色の目が見返してくるだけ。
「って片付けしてるんじゃないですか!早くしないと!」
思い立った様にエマは手を打った。
何事も無かったかのように。
まるでさっきのは俺の聞き間違いだったかのようだ。だけど、どうせ演技なんだろ。
昔は事あるごとに間延びしていた、ぬけてる様な語尾もいつしか無くなっている。所詮それも演技だったわけだ。
何考えてるのか分からないが、何か考えているんだろう。臨時会議とアイツ、なにか関係してるのか?
それをルトノフは知っている?
ならば直接聞けばいいと分かっていても、踏み出せない自分がいる。曖昧のグレーから白黒つけるのが怖い。しかももし黒だったらと思うと俺は……
だが確かに聞こえた。あれは多分、数字だった。
「…1068、2269」
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むす(プロフ) - 彩覇さん» 一気にですか…!?すごい量ですよね?ハマってもらえて嬉しいです、ありがとうございます!笑 これからも頑張りますね、彩覇さんも気詰めない程度にたまには休憩なさって下さい、応援しています笑 良いお年を! (2016年12月29日 17時) (レス) id: af8ca94d98 (このIDを非表示/違反報告)
彩覇 - 初めてまして、彩覇です。受験生なのに今日、この外交長官殿シリーズを一気読みしたバカです…。すごい良い作品で夢中になってしまいました!続編も期待してます!良いお年を!! (2016年12月29日 16時) (レス) id: 17626c4f76 (このIDを非表示/違反報告)
むす(プロフ) - けーじろーさん» ですよね!私も褒めてもらいたいです、貴重な意見をどうもありがとうございました笑 これからもよろしくおねがいします、では良いお年を! (2016年12月28日 23時) (レス) id: af8ca94d98 (このIDを非表示/違反報告)
けーじろー(プロフ) - 2がいいです!ジャーファルさんに褒めてもらいたい…♪←いつも更新お疲れ様です!これからも応援してます♪よいお年を! (2016年12月28日 9時) (レス) id: 3429c2729d (このIDを非表示/違反報告)
むす(プロフ) - どなさん» ですね、余り楽しい感じでは無さそうな…!波乱の予感がする5ですがどう転ぶか、見守ってあげてください。では、良いお年を! (2016年12月27日 20時) (レス) id: af8ca94d98 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:むす | 作成日時:2016年7月23日 8時