【マギ】政務官殿と外交長官殿IV【ジャーファル】

160話　早まる事実 ページ43

◇


『待たせたわね』


昼休み。正午の鐘の音が鳴って少し経った頃、ナターシャは談話室にやって来た。向かいのソファーが沈むので、私は目を通していた資料から顔を上げる。

『それ新人の履歴書でしょ』

「ん？ええ、もうそんな時期ですから」

手元のこれは、来月に登用される新たな文官達の履歴書だ。書類は事前にどの部署の長にも配られ、後日能力や技術からそれぞれが希望の新人を選ぶ仕組みなのだ。
だが今回の本題は別。

「……で、話とは？」

『ああ、その事だけど。ここだとあんましよね、ちょっと付き合いなさいよ』

「は」




午後の職務がある事を知ってるだろうに、ナターシャに引っ張って来られたのはいつかに訪れた茶屋。
確か以前は呑気にここでお茶している時に、バルバッドの貿易契約廃止の手紙を受け取ったんだっけか。

偶然かわざとか、ナターシャはまた前回と同じものを注文した。テーブルには紅茶とペタペタンが並んでいる。代わって私にはコーヒーが一つ、これも以前と変わらない。

「午後の職務なんて、君はお構い無しってわけか」

『いや、分かるわよ？ただね』

クルッと細い指先でフォークが回り、私をまっすぐ差す。

『アンタが残業の存在を新人に隠す為に、この季節は仕事を前倒しに終わらせてるのも分かるってこと』

人聞きの悪い。

「気遣いですよ、新人が早々無理しないようにです」

『どっちでもいいわ、最近仕事が少ないのは事実でしょ』

肩を竦め、コーヒーを流し込んだ。彼女も紅茶を飲む、と同時に睨まれた気した。

「なに？話があるんじゃないの」

『ああ、そうよ。そうだけど……ねえ！あのホテルのオーナーの話、聞いた？』

「あの、と言うとズミッシュ殿の事ですか？」

『そ、彼の友達が城に居て少し聞いたんだけどさ、彼の出生って謎らしいのよ』

彼は子どもの頃シンドリア沖に流れ着き、身寄りのない彼を先代が引き取と聞いたが…
そこがまず変、と彼女。

『南海生物のいる海よ？身一つで辿り着けるワケないし、そもそも他国から流れつける程の距離にこの国はないわ』

「なら、貿易船から落ちたのでは？」

『そう思ったけど、当時は記録だと13年前よ？
国として機能してない未開の地のウチに立ち寄る船なんて存在しないわ。
…だからね、別の場所から来たんじゃないかって。


　表向きは記憶喪失なんて言ってるけど、実際は故郷の名前もどんな場所だったかも分かってるのよ。ま、名前探した所でそんな場所、この"世界"に存在しなかったんだけど』

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