【マギ】政務官殿と外交長官殿IV【ジャーファル】

139話　寝耳に擂り粉木 ページ19

◇


『突然変な話して悪かったわね』

困った様な笑顔を浮かべてナターシャは席を立つ。

「聞けてよかったですよ。ありがとう」

『お気遣いどーも』

「いいや、自分の話をしてくれて嬉しいよ」

『そ。じゃあさ、いつかアンタの話も聞かせてよね』

窓の外を眺めていたナターシャが笑った。その笑顔が、沈む赤い夕焼けと重なってやけに眩しく見える。

私の話、か。
小さく微笑えみ返し、私はすっかり忘れていたコーヒーを飲み干した。

冷めていて、それでいて苦味が強い。


「ねえナターシャ。最後にこんな事聞くのは無粋だけど、そんな境遇を、運命を憎んだ事は？」

『運命？ないわね』

意外な返答に内心驚く。
火事の後、彼女は両親と同じく連行され処刑される間際だったと話していた。
運良く救われ孤児院に匿われたはいいものの、戸籍上は8歳で処刑され死んだと処理され、孤児院では、貴族出身を理由に虐げられていたとか。

なのに、彼女は冗談ぽく肩を竦めた。

『運命なんて信じてないから、代わりに人ばかり恨んでたのよ。私をこんな目に合わせた両親も、酷い仕打ちした孤児院の院長もね。それにアンタもよ、ジャーファル』

「え、ええ！？私も…？ 」

『だって私とあんまり歳違わないのに、私が辛い時に商会でいい暮らししてて、しかも頭も良くて…妬んだわよ』

「…全く知らなかった。君怖いな」

『ええ、覚悟してないと文官長の座から引きずり落としてやるからね』

「はは、結局そこですか」

つい吹き出すと、つられてナターシャもクスクス笑う。

『そんなアンタとまさか2人っきりで1泊するなんてね』

「変な言い方しないでよ、仕事でしょう」

『そうだけど。本当にオバケいると思ってんの？』

「知らない。君が受けたんでしょうが」

『けど夏黄文殿は何も無かったって言うのよ？
ま、噂半分に仕事の事は忘れてさ、今日はゆっくりしよ？いいホテルなんだし』

確かにこの部屋の家具は全部特注品。金の装飾は純金だろうし、大きな窓とバルコニー付き。部屋は8つにも分かれ、寝室だけで何部屋あるんだか。

流石五つ星のスイートルームと言うだけあって、1泊いくらなんだろう。予算なんて吹っ飛びそうだ。

「仕事じゃなかったら絶対泊まらないんだろうなあ……あ 。
……君、使節団の宿泊先をこのホテルに指定するけど、まさかこのランクの部屋じゃないよね…？」

『まさか』

そうだよな、さすがに予算の無駄遣…
『もう一つ大きい部屋よ』

「なっ…」

プチッと何処が切れた音がした。

140話　酒は憂いの玉箒→←138話　因果応報

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す