第九話 ページ9
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その後あの席に近寄れなかった。
またあの質問を受けそうで、本人がいる前で答えられないなんて酷すぎて。
「Aさん、あのお客さん帰られますよ」
「あ、分かったありがとう」
流石に私がお見送りに行かないのはダメだと思い、ついでに黒尾にも声を掛けて一緒に外に出た。
「ヘイヘイ‼ また来るからなあ黒尾ー‼」
「おう。いつでも来なさいよ、チビちゃんもあんがとな」
「はい‼ めちゃくちゃ美味しかったです‼」
明日も練習があるからこれで解散らしい。
お見送りと言っても、店の外で立ち話状態になってしまった。
お客さんももう少ないし、ホールやキッチンの事は少し他のスタッフに任せておく。
「え‼ Aちゃん兵庫に住んどったん⁉」
「小5までですけどね、やから関西弁話せますよ」
「ほんまや‼ 急に親近感湧いたわ〜‼ どこの小学校やったん⁇」
「⚪⚪小」
「え、まじで⁉ 俺もやねんけど‼」
「まって本間にゆーてます⁇」
�爐Δ襪気ざ眸鵜瓩海筏榻匏�と、まさかの接点に盛り上がった。
他にもあそこの喫茶店もう無いで。とか、⚪⚪先生覚えてる⁇とか話し出したら止まらなくなって久しぶりにお腹が痛くなる程笑った。
臣のチームメイトが「そろそろ帰るぞ」って言わなかったら未だに話してたと思う。
そうだ、臣にありがとうって言わないと。
「臣、今日はありがと」
最後に呼び止めてお礼を言うが、何か言いたげな表情を向けられた。
「どうしたの⁇」って聞いても答えてくれない。
頭の上にクエスチョンが浮かぶ。
「…お前さ、」
漸く話し出したかと思えば、その続きを噤んだ。
「え⁇ なに⁇」
「おい佐久早ー‼ 帰るぞー‼」
先に店から離れていた先輩が臣を呼んだ。
すると臣は「やっぱいい」と言い、背中を向けて去っていってしまった。
何を言おうとしたんだろう。
家に帰った時また聞けばいいか。
臣が何を言おうとしたかあまり気にならなかった私は、そう思って帰っていくその後ろ姿を見えなくなるまで見送った。
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作者名：林檎 | 作成日時：2020年6月19日 16時
