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208話 暑さ忘れて陰忘る ページ4




気づけば私は彼の顔をまじまじと見ていた。我に返って私は再び俯く。なんでもいいと口で言ってた割に私は動揺しているみたい。そんなちぐはぐさからか、自然と私は鼻で笑っていた。ふっ、と一瞬。

『…迷惑とか言われないだけマシってとこかしらね』

「……」

彼は何も言わない。だが少しの沈黙の末「…そんな思っていない事は口にしませんよ」とだけ呟いた。そんなこと言われたってなんて返せばいいのよ。

沈黙はとても長く感じた。それこそ、談話室で話した方が良かったんじゃないかってくらい、実際と感覚とが離れていく。時計もないここでは余計に、無音が10分でも20分でも続いている気さえした。この苦痛な時間は、私が何か言わないと終わらないのかもしれない。

『…答え、遅いわよ』

「そうですよね、ごめんなさい」

『だから誰が悪いとかの話じゃないって』

「ええ。でもね…」

彼は言葉を濁したっきりまた口を閉ざした。何か言いたいことがあるのかしら。せっかくこの場を用意したんだもん、わだかまりは全て無くしたい。思った事があるなら全部、正直にここで言ってほしい。
ていうか今までなら、何も考えずにそうして来たんだし。

『…ねぇ、こんなにアンタと気まずくなったのって私がきっかけよね?この話さえカタがつけば私達、前みたいに戻れるわよね?身内同然でしょ?』

そう言いながら脳裏に浮かぶのは、地下牢での一件。見限ったと取れるあの言葉は、これでチャラになるのだろうか。そういえばあの時一緒にいた隊長はあれから何も無かったかしら。お咎めがないといいけれど。

「…そんな事も言ってしまいましたね、私は」

彼も、私が地下牢の事を言っていると分かったようだ。苦さしか伝わってこないくらいの、ぎりぎりな苦笑いを零した。

「私は、短期間にあなたを十分迷わせてしまった。それでもまだ、そんな事を言ってくれるんですか」

『だって、私とアンタの仲じゃない。そうよね?』

また、彼は苦しそうな笑みを浮かべる。

「…あなたは優しいですよ、やっぱり」

だから、なんなのよそれ…。まるで内に秘めたなにかを隠しているかのよう。

『ねえ思ってる事があるなら今この場で正直に言って。私はアンタに誤魔化しも嘘も言ってないわよ』




***

もし、このVIの表紙を描いてもいいよなんて言ってくださる方が居たら、是非お願いします!

いただいたイラスト→←207話 胆は大ならんことを欲し



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ますしん - こーれーはー!続きが気になる!!ぜひ!私に続きをお恵みください! (7月19日 1時) (レス) @page14 id: 4f68107129 (このIDを非表示/違反報告)
saburina(プロフ) - 生き続けてたなと言うか…なんて言っていいか分からないけどすごく感慨深かったです…続きは読みたいけど無理はしないでね!いまのTwitterも覗かせてもらいます(*´-`) (2023年1月20日 16時) (レス) id: b3e3db623a (このIDを非表示/違反報告)
saburina(プロフ) - 覚えてるか分からないけどお久しぶりです…!5年ぶり?くらいな気がする、見に来たら更新されてて、二人がくっつくところまで見れて本当に嬉しい;;改めて素敵な作品だなって思ったし、もしかしたら更新はもう難しいかもだけど改めてナターシャって私の中でもずっと (2023年1月20日 16時) (レス) id: b3e3db623a (このIDを非表示/違反報告)
あまね(プロフ) - すっごい好きすっごいなんかもう好き(語彙力とは)、、、最初からここまで一気読みさせていただきました!1話1話の内容がとても面白くて、もっと読みたい!って思えました!!!更新を楽しみにしています。応援してます!!! (2022年1月8日 6時) (レス) @page15 id: 1a6dd63888 (このIDを非表示/違反報告)
ララ - 面白くて最初から一気に読んでしまいました。久しぶりに良い小説を見つけたなって思いました。続き待ってます。 (2021年1月8日 13時) (レス) id: bb022a85bc (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:むす | 作成日時:2017年12月15日 20時

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