独房 ページ12
かび臭い。
付けられた枷から伝わる鉄独特の冷たさ。
鉄格子のはめられた寒々しい研究所の独房。
(久しぶりだな、ここ)
西軍へ入ってからはずっとP*suKEのオペレータ室で仮眠をとったりしていたから、こことはあまり関わりがなかった。
だが、いまでも覚えている。
壁のシミの数。このかび臭いにおい。漂ってくる薬品のにおい。くすんだシーツの色。
すべて、覚えている。
ただひとつこの部屋で違うのは、両手足に枷がはめられたこと。
暴れないように、だろうが、暴れる気力もない。
手当てすらせずに身ぐるみ剥いで研究所支給の汚いボロ布を着せられて、枷を付けられて放り込まれた。
まぁ、よくあることだが。
ここで手当てなんて満足にしてもらえたことはない。
脇腹を撃たれたのがしまったなと思いながら、俺は布をちぎって適当に止血する。
太ももと手にも巻き、ふぅと息を吐いた。
(……初めてだな)
ここが、こんなにも息苦しいと思ったのは。
西軍ではここにいるのが普通だったから、息苦しいなんて思ったことなかった。
これが、普通だった。
深々と息を吐いたと同時に、独房の外にある扉が開き、看守らしき男が、淡黄色の眼を細めてこちらを見ていた。
「出ろ。現王様がお待ちだ」
「…どういう風の吹き回しだよ」
呆れ顔でそう返すと、看守が持っていた打棒で肩を殴られた。
「でかい口を叩くな、下等種が。お前のようなヤツが“王の眼”を持っているなど、身の程を知れ」
「……はいはい」
適当に返事を返せば、再び殴られた。
どいつもこいつも、口を開けば同じことを言う。いい加減飽き飽きしてるんだよ。
「連れてくるのに、乱暴にするなとは言われていないからな。多少いたぶってもいいんだぞ」
「……勝手にしろよ」
俺が冷めた眼で言い返すと、顔を真赤に染めて、目尻を釣り上げた。
そんな看守が再び俺に打棒を振り下ろそうとした時、横から制止の手が伸びる。
「貴様…F91! 邪魔をするな!」
「あんたの仕事はさっさと連れて行くこと。そういう役目はおれのはず。とっとと出して歩かせろ」
舌打ちをした看守が鉄格子の鍵を外して俺を出させる。
(さり気なく止めてくれたのか?)
よくわからないな、と思いながら、俺は後をついて歩いた。
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長閑(プロフ) - 夏煌さん» 読んできただきありがとうございます!初期愛称の「ナノ」を日本での単位にすると「塵」でして、その名前を呼んでくれるmsspと、愛称としてつけてくれたふぶさんへの敬愛の意味でございます。…そんなに…深い意味は…ない(;´∀`)ハハッ← (2015年2月15日 16時) (レス) id: b1fbb6f323 (このIDを非表示/違反報告)
夏煌(プロフ) - 全て読ませていただきました!質問なのですが主人公が使っている塵とはどんな意味があるのでしょうか?理解力なくてすいません(>_<) (2015年2月8日 23時) (レス) id: 185900a38c (このIDを非表示/違反報告)
紫雨(プロフ) - 2度目の完結おめです!! 次回作、楽しみにしてます! (2015年1月17日 18時) (レス) id: 426cfae2bb (このIDを非表示/違反報告)
麗琥−りく−(プロフ) - 完結おめでとうございます!!楽しく読ませてもらいました!!次回作も読ませていただきます!! (2015年1月17日 16時) (レス) id: 76a46eac77 (このIDを非表示/違反報告)
翼羽 - 完結おめでとうございます!とても面白くて最後までいっきに読んでしまいました。msspと軍パロは大好きでしたのでニヤニヤしながら読んでました(笑)でも最後はすごく感動させられて涙ボロボロ流してました;;次回作も頑張ってください!応援してます! (2015年1月12日 14時) (レス) id: 1b255c9260 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:長閑 | 作成日時:2014年12月29日 22時