【ＭＳＳＰ】欠片と破片【短編集】

Ｆ：言の葉の祝福　『赤狼』 ページ46

パッと眼を開いた。窓を見て外が真っ暗になっていることに気づいて、俺は大慌てで時計を確認する。その時間に眼を見開く。大慌てで起き上がれば、体重をかけた右手が痛んだ。それでようやく寝ぼけた頭が覚醒した。
(そうだ、昨日帰ってきたんだ)
　今日はふぶさんの誕生日。だから、東軍の面々とお祝いがしたくて大急ぎで戦場から帰ってきたというのに、明け方に帰ってきて疲れがどっと押し寄せ、そのまま部屋で眠ってしまったのだった。
(あぁもう、俺の馬鹿！)
　昼ぐらいには起きれるだろうと思っていた、数時間前の自分の軽率さに悪態を吐きながら俺は手近にあった上着を大慌てで羽織る。なんだかサイズが大きいような気はしたが、いまはそれどころではない。大股で廊下を走り、目的の人物の部屋にたどり着く。大きく息を吸い込んで、吐き出して、意を決する。ドアをノックし、声をかけた。
「あの、ふぶさん。いますか…？」
『……A？ ちょっと待って、いま出る』
　ガチャリとドアが開く。ややきょとんとしたふぶさんの表情。どうかしたのかと問いたげだった。
「あの、誕生日おめでとうございます……！」
「え？ …あぁ、ありがと」
　ふぶさんは一瞬瞠目して、それからやんわりと表情をゆるめる。
「すみません、こんな遅くなって…！ 本当は俺、ちゃんと昼には起きて言おうと思ってたんですけど、」
「いいっていいって。…A、戦場帰ってきてすぐだったんだから、疲れてたんでしょ？ お疲れ様。明け方帰ってきたんだよね」
「は、はい。…どうして知って…？」
「きっくん達が朝からお祝いしてくれてたんだ。ほら、Aが少し前に手紙で誕生日には返ってくるつもりだって教えてくれてたでしょ？ だから朝部屋見に行ったんだよ。起こすのは忍びないし、起こそうと思っても起きなかったから、そっとしておいたんだよ」
　なんてこった。もう帰ったままの姿できっくんの所へ行けばよかった。荷物を置きに部屋へ向かって、一休みとベッドに腰掛けたらそのまま眠ってしまった。
「気にしないで。お祝い自体はきっくんが騒ぎたかっただけだろうし」
「でも、俺何もしてないし何も用意出来てなくて…」
「いいんだよ。俺はAに“誕生日おめでとう”って言ってもらえた事が一番嬉しい」
　そう言いながらふぶさんはいつものように笑顔を浮かべてくれるが、流石に俺としては“おめでとう”だけで終わらせる訳にもいかないのだ。

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