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9冊目 ページ9

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「っつーか、なんで見えんの?
居ても気付かれねーくらい影薄いんだぜ?」


『だって、好きな人だもん』



即答された。

いや、本当に何言ってるんだコイツ。
好きとか嫌いとかの感情論で影の薄い奴を攻略するとかねーだろ。



『ただのクラスメイトで興味が無いなら
私も一生認識しないまま卒業してたと思う。
でも好きで興味を持ってるからこそ意識して目で追うし
その分、黛くんに気付くし……私には見えてるんだよ』


「……」


『えっと……だから、その……』


「あー、もういい。わかった」



俺は話を遮ると「俺はもう眠いから切るぞ」と言って
勝手に通話を終わらせるとスマホをベッドに投げた。



「チッ……」



調子が狂う。俺が狂わされる。腹立つ。
これほど電話で良かったと思う日は無いだろう。



「クソ、あっつ……」



シャワーに行くついでに頭を冷やしてこよう。
慣れないことを言われて反射的に反応してしまっただけだ。

どうせ明日からは関わる事はないんだし。




.





次の日、俺はいつも通りに登校し朝練をして教室に行き授業を受けた。
昼休みに買ってもらった本を読み放課後にまた部活に行き、帰宅する。

昨日の事が夢かのようにいつもの一人での日常だった。

自分には記憶があるのに相手には記憶が無いようで
まるでタイムリープ物の主人公になったみたいだ。


まあまあ悪くない感覚ではあったが
今はタイムリープものの気分では無いので
気分を変える為にラノベでも読みながら歩く。


俺の日常が戻るのに時間は掛からなかった。




それから二日後の昼休み。
それまで特に会話も何もしてこなかった癖に
俺が本を読み終わったタイミングで(人1)は俺の近くに寄ってきた。

両手を机に置いて体重を掛けると待ちわびたとばかりに体を前のめりにする。



「ねえ、黛くん。放課後に部活終わるの待ってるから本屋行こうよ」


「……」



読み終わるのをずっと待っていやがったのか。
また俺に本を買えば恋人になれるから。

こいつにとって、俺である事はそんなに大事な事なのだろうか。

いや、無い。
やっぱ俺よりマシな奴の所に行けばいいと思う。



「…待ってなくていい」


「えっ?」


「日曜日、部活が午後だけなんだが」


「行く…!」


「まだ何も言ってねぇ」



それから日曜日に会う約束を取り付けると
(人1)は嬉しそうに席に戻って行った。

食い気味とかってレベルじゃなかった。


…本当に、何で俺なんだ。

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作者名:由麻 | 作成日時:2024年3月26日 0時

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