2冊目 ページ2
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聞いてから傷付けただろうかとほんの一瞬だけ頭の一番端で薄らとだけ考えたがすぐに「まぁ、コイツが傷付こうとどうでもいいか」と結論に至った。
「同じクラス…の(人1)Aです」
同じクラスにも関わらず、それすら認識していなかった。
好きな男に認識されていなかったとあらば、
傷付いたどころかいっその事、幻滅しただろう。
俯かせたままの瞳を長いまつ毛が隠すものだから
感情は上手く読み取れなかったし読み取る気もなかった。
まあ何にせよ傷つこうが幻滅しようが
俺はコイツの心情なんざ正直どうでもいい。
「そうか。(人1)。俺は今お前を知った」
「…?…はい」
やっと俺へ向けられた澄んだ瞳は、
訳が分からないと言ったようにぱちくりしており
無意識なのか頭を軽く傾ける仕草を見せた。
その仕草が許されるのは二次元だけだ。
「お前は今知った奴の告白に答えられるのか?」
「こ、答えられないです」
「そういう事だから、俺は帰る」
人生の中で数少ない告白を棒に振ったとは思ったけれど
知らない奴と付き合う程に落ちぶれてもいない。
俺は(人1)を通り過ぎると屋上を出る為に扉に手を伸ばす。
「ま、待って下さい」
が、回り込まれてその手を掴まれた。
「どうしても、ダメですか?」
「……しつこい」
少しだけイラッとしてきて手を振り払ってでも
帰ってやろうかと言う気持ちも現れたけれど、
それは、次に彼女から発せられた衝撃的な言葉…
もとい、提案で一気に落ち着いた。
「た、例えば…そう、ラノベ!
私が貴方のラノベを一冊買います!
その代わりに一日恋人になるって言うのはどうですか!?」
その有り得ない提案に「何言ってんだコイツ」と本気で手を振り払おうとしたけれど、途中で「いや、待てよ」と冷静になる。
名前と同じクラスという事しか知らないコイツの恋人なんざ御免だが
その代わりにラノベ買って貰えるってのは
冷静に考えたら悪くねぇんじゃねえか?
いや寧ろ良い。読みたいラノベは沢山あるんだ。
その分の出費が浮くって事じゃねぇか。
俺はただ、たった一日我慢すれば良いだけ。
「…それは、一冊買う度に一日恋人という解釈で合ってるのか」
「はい…!」
やっと腕を払うと屋上の扉を掴み、開く。
緊張と不安の混ざった面持ちの彼女を一瞬見てから
「乗った。今から本屋に行こう」
そう言って、俺は彼女と共に屋上を後にした。
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作者名:由麻 | 作成日時:2024年3月26日 0時