コート場の帝王 ７【○○○！！】

帝王 256 ページ39

縁下「でも俺は“逃げた”」




チームのトップなんてできるワケないだろ




俯く縁下は、そうポツリと零した


「逃げた」


この事実が、彼が主将という役職をひとつ返事で引き受けない1番の理由


誰も根性無しには着いてきてくれないし、着いてきたいとも思わないだろう



俺にやる資格はない







田中「だからかもな！」

縁下「？」

田中「運動部だからって猪突猛進タイプばっかじゃねぇし、俺は自分と違うタイプの奴の事はよくわかんねぇ！」



「けどさ、お前は多分“どっち”もわかる奴だ！」



縁下「！」







単細胞だからこそ、田中のその素直な言葉は縁下に真っ直ぐ届いた




今は戻って来たから、所謂「猪突猛進」タイプの気持ちも分かってあげられる

そして1年前逃げたからこそ「根性無し」の気持ちも分かってあげられる



これは主将候補であったもう1人の青年、Aには無い縁下だけの強みであった






田中「まぁ、まだ先の話だけどな！」

木下「あー腹減ったー」

成田「アイスじゃお腹膨れないもんね〜」

西谷「アタリでた！変えてくる！」

木下「先歩いてるからなー」

縁下「…」






この話はまだ大分先のことなので一旦終わりになった

それでも縁下の顔は晴れないまま


彼らと肩を並べ歩きまた別の話しになろうとも、縁下だけは心ここに在らずで上の空



するとクンッと服の裾を引っ張られた





縁下「っ、A？」

『…もし』




止めたのは黒髪の美青年で、その薄紅色の小さな唇は言葉を紡ぐ




『もしお前が主将になるって決めた時は、オレお前のこと横でサポートするよ』

縁下「！」

『何を言われようと縁下はオレが護るから』




だからそんな思い込まなくても良いんじゃない？




そう言い切った柘榴色の瞳は彼本来の心の強さと、少しの照れ臭さで美しく染まっていた



何でこの男をこうも愛おしく思うのだろうか

男だろうが何だろうが、惚れさせに来てるだろこれ



まぁ生憎、この1年でAのイケメン耐性は付いたからそう簡単には落ちないけどさ





縁下「守るって言っても俺男だし…」

『関係ねぇだろ』

縁下「…でもありがと」

『ん』





【帝王】と恐れ1度は拒絶した彼は、いつでも俺を救ってくれる

何度も何度も、道を見失えば光となり その道標として此方に手を伸ばしてくれる




そんな彼の横に並んだ縁下の表情は澄んでいた


嵐の夜が通り過ぎた、明くる朝に照らされる露のように。

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