210 心配。 ページ10
「心配かけちゃったのはごめんなさい。結果論だけど……私は五体満足でここにいるわ。これからどうなるかは分からないけど、あなたは強くなって、自分の身を自分で守れるようになったわ。だから、それで良しとしましょう? ……ね」
「……」
喉が震えて声にならなかったから、俺はゆっくりと何度か頷いて、それを返事にした。
鈴はそんなAに微笑んで、親愛のキスを額に贈って。数分前より小さく見える、愛しい妹の体を、壊れんばかりに強く抱き締めた。
◆
「お〜い」
息の白くけぶる朝。学園に続く階段を登る生徒たちが大勢いる中、Aたちの耳に届いたのは、そんなあくび混じりの、間抜けな声だった。
__ああ。なんだかとても久しぶりに、この声を聞いた気がする。あくびで締まらない顔をしているだろうと思いながら、Aは後ろを振り返った。
「おはよっス」
案の定。燐の顔を見て、Aは少しだけ、強ばっていた肩の力が抜ける心地だった。
あくびすら白くなるほどに冷える朝だ。肩の力が抜けるくらいがちょうどいい。
子猫丸がにこやかに挨拶を返した。
「おはよう。奥村くん、勉強できた?」
「とちゅうでねた。……もうあきらめる」
まだ眠たげな声だ。言いようのない愛嬌に朝から愉快な気持ちになる。かく言うAも、昨日は勉強していない。……。……ちょっとまずいかもしれないけど、まあ、もう遅い。
「今日のテストさえ乗り切ればっ……後は冬休みや!」
アソベル〜〜、と冬休みを心待ちにしている志摩。
しえみが合流した。
「冬休み、みんなどーすんだ?」
燐がしえみに挨拶をしながら聞いた。真っ先に答えたのは志摩で、次に勝呂。そして二人に意見を引きずられた子猫丸。
「俺は実家帰らへんよ〜」
「俺も忙しいわ」
「坊も志摩さんも帰らへんならぼくも残ろーかいな……」
どうやら京都組は全員残るようだ。それを聞いた出雲が、横に並んだ皆皆を見ながら言った。「みんな残るなら認定試験の勉強会やらない?」
「えーっ! どうせ集まるならクリスマスパーティーせぇへん?」
子猫丸の、ええなあ、に被せるように叫んだのは、やっぱり志摩だ。
クリスマスか。Aのクリスマスの思い出といえば、初めてハヤト……師匠と迎えたクリスマスの日に、キーホルダーを貰ったことくらいだ。安っぽくて、土産屋に売っていそうなキーホルダー。そういえば、あのキーホルダー、たぶん無くしちゃったんだろうな。……惜しいことをした。
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うたプリ大好き?(プロフ) - 続き気になっています この作品はもう更新されないのでしょうか? (2020年12月10日 3時) (レス) id: 48370e286a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:アオ | 作成日時:2017年12月5日 22時