228 過去編。 ページ28
視界の端にチカリと白く輝くものが見えた。
「?」
手がかりかもしれない。見えた方に足を向ける。気が緩んで、足音を消す努力すらしていなくて、地面の草がガサガサと音を立てた。
草むらの中を覗く。白くて丸いふわふわの毛玉。長い耳、赤い目、何本か伸びた髭。
うさぎだった。
「なんだ、うさぎか……」
頭をポリポリ掻く。逃げる気配もないうさぎを珍しく思い、軽くひと撫でした。野生とは思えないふわふわ加減だった。そっとひと撫でのつもりが、両手でうさぎをモフモフと思う存分触っていた。癒される。意外と小動物も好きな師匠を振り返る。
「師匠ー、こっちにうさぎが……」
言いかけて止めた。木の根元で休んでいたはずの、ハヤトの姿がなかった。
「あれ……?」
立ち上がって見回してもいなかった。「師匠ー?」さくさく。辺りを少し歩いて声をかけても返事がない。Aは徐々に焦りだした。
さっき2人で探そうって言ったのに、言い出しっぺの本人が勝手にどこかに行ってどうするのだ。もう一度大声で呼ぶ。「師匠ー! どこー!?」
突然。
後ろに大きなものが落ちる音がした。
一瞬思考がフリーズする。
悪魔か!? 急激に回転し出した頭でそう思って、咄嗟に前に飛ぶ。振り向きざまに鎌を呼び出す。地に足をつけ、敵と対峙した。
__はずだった。鼻腔を血臭が刺激する。
そこに倒れていたのは、背中から血を流したハヤトだった。うつぶせで、背中の大きな切り傷が目に飛び込んでくる。祓魔師の制服の背が血を吸って重たげに染まっている。Aは血の気が引いた。
「師匠ッッ!!」
駆け寄る。
「し、っ、ししょ、だい、だいじょ、師匠っ!」
顔をペチペチ叩いて意識を確認する。「ぐ……」うめき声。ああ、よかった、生きている! Aはハヤトの背中の傷を押さえた。同時に頭上を見上げる。いつの間に彼を傷つけ、運んだのかは知らないが、おそらく敵は木の上であるはずだ。
だが、見渡せど見渡せど、悪魔どころか鳥一匹すら見当たらない。この森に先程までいたはずの生命たちは、今やどこからも、その気配を消していた。それどころか、さわさわと木の葉を揺らしていた風すらも、今はピタリと止んでいる。
「……A、逃げろ」
喘ぐようにハヤトが言った。背中から血を垂れ流したまま。
Aは条件反射的にハヤトを担いだ。一旦体制を建て直した方がいいことは、Aも同意だった。
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うたプリ大好き?(プロフ) - 続き気になっています この作品はもう更新されないのでしょうか? (2020年12月10日 3時) (レス) id: 48370e286a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:アオ | 作成日時:2017年12月5日 22時