226 過去編。 ページ26
ハヤトが銃の手入れをしている。
「どっか行くの」
問えば、彼は「ああ」と少し面倒くさそうに溜息をつきつつ、Aの顔を認めてタバコの火を消した。ぐしゃり。灰皿の上でタバコの吸殻がひとつの山を作っている。
「明日の任務のための手入れだよ。めんどくせえけど仕事だからな……」
「ああ、あれ。どっかの森に悪魔が棲み付いてるんだっけ。なんで悪魔って森とか林とかに棲みたがるんだろうな……」
ハヤトは清掃を終えたパーツをまた組み立て直している。カシャ、カシャ。流れるような作業風景が心地いい。
「まあ、人混みに潜む悪魔もいるっちゃいるけどな。コールタールとか。でも、それより力の強い奴らは、俺ら祓魔師に祓われるのを恐れて、人目につきにくい場所に隠れ住んでいることも多い」
「へー」
カシャン。最後のひとパーツをはめ込んで、動作チェック。弾倉のリロードまで手馴れた一連の流れをなぞる。ハヤトは満足げに頷いた。
「お前も準備しとけよ」
「もう終わってる。俺は身体ひとつあれば十分」
「ほぉーお。言うねえ」
言って、ハヤトはAの腰のベルトに付いているおもちゃの十字架に目をとめた。銀メッキで、中央にプラスチックのルビーがついた、土産屋で売っているキーホルダー。いつだったか任務帰りに買ってやったものだった。
「まだつけてんのかい、これ」
「まあ、師匠がくれたもんだからな」
「お前もだいぶ稼げるようになったんだし、もうちょい良いやつ買えばいいのに」
なんでこんな安っぽい、どこにでもあるようなキーホルダーを、後生大事に持っているのか。Aは壊れ物を扱うかのようにそれをすくい上げ、「お守りなんだ」と笑った。
「……祈祷してもらったやつとかの方が、ご利益ありそうだけどな」
まさかそんな穏やかな顔で言われるとは思っていなくて、面食らった末に出てきたのは、そんな憎まれ口だった。
「いいんだよ。俺にとってこれは、どんなカミ様の加護より、由緒正しい祈祷師の祈りより、価値のあるお守りなんだから」
「500円でそこまで言われちゃ、祈祷師も占い師も商売上がったりだな」
熱烈な愛情表現__それとも執着だろうか__に、ハヤトは諸手を挙げて降参した。自分に向けられていると思うと、嬉しいような、むず痒いような、少し怖いような。この少女に、盲目的な執着を与えてしまったのは、よもや己なのではないだろうか。
彼女には、色んな人と関わって、世界を広げて欲しいのだけれど。
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うたプリ大好き?(プロフ) - 続き気になっています この作品はもう更新されないのでしょうか? (2020年12月10日 3時) (レス) id: 48370e286a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:アオ | 作成日時:2017年12月5日 22時