「元」友人 ページ9
今日の昼は、渚学園と星が丘の吹奏楽部員が全員音楽室で食べた。俺ー東海林翔ーは、海斗くんとその友達の浦部くんのグループにお邪魔して、食べながら色々な話もした。欲しい楽器のモデル、好きな奏者、トロンボーンあるあるなど、吹奏楽部でなければ分からないようなマニアックな話ができた。
そして今、ステージ前に30分だけ自由時間をもらい、フラフラ出歩いている。本番前に気分転換をするだけで、特に用はない…はずだった。
校舎を出た所で、事件は起こった。
俺の中学時代の親友が、そこにいた。
ひょろっとした背筋、猫背、何をしても直らないクセが強すぎる天然パーマ。1度見たら忘れない強烈な何かがある。
奴の名は、入江奏汰。入江は、かつて俺と吹奏楽部でトロンボーンを吹いていた。入江は文化祭を毎年楽しみにしていたから来たのだろう。中学の頃はとても仲が良くて、けど時にはライバルだった。
しかし実際俺は、入江に負けっぱなしだ。ライバルというのもおこがましいか。
入江は、中高一貫の渚学園を、中学でやめた。今は県内の全国大会に何度も出場しているような強豪校に通っている。
「高校でもまた対決しようぜ。」
引退の時に交わした約束は、実現しなかった。入江が他校に進学して、俺もドイツに行った。それで約束は叶わずに、気付けば高校2年生。
ー後輩にあれこれ言ってるくせに、自分は何やってんだよ。
俺は自分にそう言いきかせて、入江に話しかけようとした。
ーおい、俺も入江も変わったんだぞ。無理に話しかける必要はない。
そんな自分が出てきて、やっぱりやめよう、と思ってしまった。
ーいや、また仲良くなろう。
そうそう、そうしよう。おい入江…
ーわざわざ過去に固執することはない。また対決するにしても、俺は今日で楽器をやめる。
それも一理ある。
自分の気持ちに振り回されて、ワケわかんなくなって結局話さずに自由時間が終わってしまった。
ま、いいか。過去に執着してても前には進めない。引きずってもしょうがないし、切り離してしまおう。負け惜しみがないと言ったら嘘になる。でもいいや。楽器をやめる以上、入江との別れは避けては通れない。
さらば、俺の「元」親友。またどこかで会おう。
もうとっくにどこかへ行って、ここにはいない入江に別れを告げて、俺はその場を後にした。
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作者名:BLUE LEMON 綺 | 作成日時:2020年12月18日 22時