9 ページ9
背丈は俺より低いが、バイタリティも知識も半端ない隠れ熱血ドクターだ。
人生はジム、サウナ、病院、男どもとの飲み会の中にあると力説している。
『何だよ、何か気になることあんでしょ?』
どう訊ねるか切り出しにくくて口籠っていると、北山先生はやっと手を止めてこっちを向いた。
『いや、あのぅ…お、奥邑さんっていい人ですね。笑顔が素敵というか、可愛いっていうか!』
『お前、患者を顔で判断すんなよ。身体の中見ろって。』
『え〜と。心の中じゃなくて?』
『そりゃ心療内科の仕事っしょ。ま、循環器内科でも《ハート》は診察できるけどな。』
彼は悪びれもせずに童顔ぷるぷるの顔をニヤリと歪める。
ニヒルと超童顔って共存可能なんだなぁ。
女性看護士の母性本能を刺激するギャップ恐るべし。ご本人はストイックすぎて熱い視線など何処吹く風だけど。
……《ハート》か…つまり心臓ね?
上手いこと言ってやったとばかりにニヤニヤしてる北山先生が厨二病の高校生に見えてきたぞ。
まぁここは後輩として礼を尽くそう。
『上手いっ!流石!………で、奥邑さんなんですけど。』
『このやろ。俺の《ハート》適当に流そうとしたろ。』
…おべんちゃらは苦手なんです。
『まあまあ…いや、奥邑さんって確か緊急で入ってこられましたよね?フットサルで激しく動いた後の胸の痛みで。
北山先生は狭心症の疑いと書いてらっしゃいますが狭心症としても労作性…なら、1日で済む心電図とエコーでも診られます。入院するのはあまりにも大袈裟じゃないですか?しかも治療計画予定期間10日前後は長すぎないかなって。コロナが落ち着いてきたとはいえ、病床が余っている訳でもないし。
何より患者さんの体力筋力の維持の為に入院は必要以上にさせないっていつも北山先生が言ってらしたのに、奥邑さんに関しては何も仰らないのは不自然すぎます。
俺は他の虚血性を疑ってカテーテル検査を入れるのだと思っていました。北山先生が全く奥邑さんの検査を入れようとしてないのは何故でしょう?
僕もサブとはいえ担当なんで、患者さんの情報は全て共有してほしいです…。』
一気にぶつけすぎたかな?
北山先生の形の良い眉がキュッと顰められた。瞳があちらこちらへくるくる動いている。
適当な答えを探してあぐねているようだ。
『……あ〜、何つうか。』
その時、奥の控え室から静かに誰かが顔を出した。
『北やん、もういいよ。周芳野先生には協力してもらえばいいんじゃない?』
43人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:みあん | 作成日時:2023年2月26日 1時