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この声は…!
声の主を見て、背中が粟立つほどに驚いた。
奥邑さんは《やあ…》と所在無さ気な表情で後頭部に手を回している。

眼鏡を掛けた顔は初めて見たがちゃんと度は入っているし、カッターにスラックスの上から白衣でサンダルという簡単な出立ちは勿論うちの医師でも多いが、奥邑さんはまるで昔からそこにいたかのように着こなしていた。
どう見ても医師…それも割と中堅の。


『すみません、周芳野先生。ちょっとこちらへお越し下さいますか?北やん、よろしくね。』

静かな優しい声の人は俺のそばにそっと近寄り、耳許に聞こえるか聞こえないかの囁きを残したかと思うと、音も立てずに歩き出す。


ナースステーションは夕食時の忙しない賑わいから徐々に静けさを増している。
だが、いくら夜勤の看護師が服薬やバイタル管理の為に出払っていると言っても、医師や居残って今日のカルテを仕上げている看護師もいた。
控え室には交代制で夕食を取る看護師もいたはずだけど、何故患者がここにいるとバレてないんだ??


北山先生が大きく伸びをして、小さな声で呟いた。

『…ったく。だから最初からすわのっちには言っておくって言ったろ?』
『ごめんね〜。仕事上きっちり確認してからじゃないとさぁ。』

いつもの愛くるしいポメラニアンのような人懐っこさや戯けた口調はそのままだったが、明らかに奥邑さんはいつもとは全く違う顔…この人は一体…。

『相談室A使いまーす。』

『はーい!』

控え室から男性の声がした。
チラリとそちらを見ると誰かコップを持って出てくる。

『……横尾さん?横尾さんも知っていたんですか?』

その後ろには千賀くんも顔を出して、ニッコリ笑い手を振っていた。

『周芳野しぇんしぇい、コレ持ってって。カフェラテでしたよね?あの人はブラックにぇ…看護師長と俺たち数人も知ってます……安心して下しゃいね。』

コーヒーの入ったコップを2つ、俺の手に預けながらカミカミで囁く。

………訳が分からん。
それでも訳が分からないままに、俺は吸い寄せられるように奥邑さんの後を追った。



『…まずは謝ります。ごめんなさい!』


相談室のドアがカッチリ閉まると同時に奥邑さんが頭を下げてくる。

『…え?ど、どういうことっすか??』

立ったまま狼狽える俺を上目遣いで見てくる奥邑さんは、一瞬でポメに戻っていた。

『周芳野先生を騙す感じになっちゃったから申し訳ねーなって。それに、ちょっと調べさせてもらいました〜。』

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作者名:みあん | 作成日時:2023年2月26日 1時

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