ひとくふう荘14 (ページ8)

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それからゆっくり僕を抱き上げて、悪戯な瞳で僕を抱え込んだ。

『…ふふ。どれ、タマモリに見せつけてやろうぞえ？』

……あれ？不思議不思議〜っ！
ちょっと複雑なお気持ちがすうっと消えて、なんだかホッとしちゃうの！

この腕はトシコさんのものだけど、この温かさはキツネさんの温かさ。
その腕の中はとても居心地が良くて、僕はその胸にお鼻を埋める。トシコさんの匂いの中に微かなキツネさんがいる。柔らかな安心感にお目目を閉じると、何故だか僕のしっぽがゆらゆら揺れた。

『…生きていれば誰しもが多くの者や時やことを愛し、忘れ、また新しく愛を覚える。そして、愛する者から同じだけ愛し返されることや、永遠に同じ熱さで愛し続けることは親と子でもなければそうはない。

だけど皆はそうして記憶を重ねていくのだ。喜びも楽しみも憎しみも哀しみも愛から始まるのかもしれないよ。
きっと、愛することがなければ記憶は半減するだろうねぇ。無味乾燥なる日々は記憶には残らないから。

嫉妬は愛情を測るモノだから悪いことではないけれど、いちいち妬んでいれば相手の生きてきた時さえ否定しなければならなくなるから、ほどほどにするのだよ？』

…うん。ツチノコさんとの愛や、お父さんの奥さんとの愛が今のお父さんを作ってるんだもんね。
僕が好きなのは、僕と出会ってからのお父さん。つまりは、僕が知らなかった方たちとの大切な愛でできているお父さんを好きなの。

トシコさんの長い睫毛がふるりと揺れた。

『……これは覚えておいて。お前のように多くの者から愛されることは稀有なことだえ。
しかもお前はその愛を受け止めてお前なりの想いで返そうとする。愛されるだけでは気が済まない…それが相手の苦しみや哀しみを癒すのだ。
だから、決して愛を怖くならないで？』

ふぅ…ごめんね、ネコタマさん。
トシコさんの胸、ちょっとだけ僕たちに貸してね？
お父さんのお膝はおあずけだけど、キツネさんの優しい抱っこが僕のお心を広くするの。

ありがと、キツネさん…。

『……方角は気にせんでええけど互いに相性のええ木もあれば相性の悪い木もある。柊とオニシバリみたいに目的や名前で組み合わせたもんもあるわ。名前もまじないやからな…。あとは病害虫の関係で離しといたほうがええもんもある。

日本のんも外国のんも植えたり植え替えたり色々試してみたんやけど…君らが新たに見つけた木を植えてもかまへんねんで？香草やら最近は色々手に入るさかい。』