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帰りの車の中、僕はケージの中でお父さんの匂いを思い出しながらお外を見てた。
運転はタマさん。結局交替したみたい。
後ろの座席のミヤタさんが、ケージの中の僕を見ながらぽつりと呟く。
『ドンブリは、大好きな人を元気にする能力があるんだね…。』
前のほうから、タマさんがくふっと鼻を鳴らして応えた。
『…そうね。じいちゃん、ドンブリと離れる時手ェ振り回して立ち上がりそうになったもんな。あんな元気に笑うじいちゃん、久々に見たわ。』
僕のひと工夫…ううん、さっきのは、実はただ僕がお父さんに触りたかっただけなんだけど。
それでお父さんが元気になれたなら、僕も嬉しい。
『……俺も大好きな人を、俺の力で元気にしたいわ。』
ミヤタさんの声が優しいよ?
『………お前が大好きな人ってさ〜ぁ……あ、何でもねー。』
タマさんがまた訊きたいことを訊かなかった。
…訊かないの?訊いたら、タマさん、とっても幸せになれるよ??
『……俺が20歳くらいの時に《世界で一番好きなのはタマ、世界で一番タマが好き》って言ったの、憶えてる?』
『………あれ、ウケ狙いだったじゃん。バンドのライブのMCでさっ、ミツとかにからかわれてさ…。』
窓の外から入ってきた風の中に、夕方の匂いがした。
今日の夜のお散歩は、誰が行ってくれるのかなぁ?
『………今も変わらないんだよね。俺の中で、その気持ち…。ずっと。』
ミヤタさんの声は美味しそうなくらいに甘くて優しくて切なくて。だけどしっかり歯応えのある声。
タマさんは、黙っちゃった。
だけど、僕、知ってるよ?
今日の夜のお散歩は、きっと2人で一緒に行ってくれるよね〜。
僕、今日は絶対お邪魔しないから、大丈夫!
僕のお鼻に落ちてきたお父さんの涙をペロリと舐めて、僕はなんだかとても気持ち良くなって目を閉じた。
fin.
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作者名:みあん | 作成日時:2021年10月3日 15時