83 その男、檸檬色の瞳 ページ33
「失礼します」
「いらっしゃい！」
午後九時ごろ。彼女は丁寧にノックをして部屋にやって来た。服装は昼間とは違うパステルイエローのハレムの仕事をする時に着られる衣装。ということは、彼女もただのお疲れ様会をするだけじゃ無いのは分かっているのだろう。勿論自分もそれだけで済まそうとは思っていなかった。トントンには予め伝えヴァレットの仕事を切り上げてきてくれたようだ。
窓際の向かい合って座れるテーブルとイスに彼女を案内する。テーブルに置かれた見慣れたお酒を月明かりが照らし、どこか幻想的に見えた。
「取り敢えず、Aちゃん仕事お疲れ様でした！乾杯」
「乾杯！」
コツンと小さくグラスを合わせる。すると彼女はグラスをぐいと呷った。既に半分ほどになったグラスの中身を見て、それから此方のあまり減ってないグラスを見る。一瞬だけピクリとも体が揺れ、そして次第に赤くなる顔。
「……すみません」
「ええって！飲んでや」
意外と思いきりのいい子。正直一気に飲んだ時は驚きだったが、それ以後恥ずかしそうに俯いてちびちびとグラスに口を付ける彼女をどこか可愛らしく思った。
色々な話を聞いていると思っていたよりも彼女は素朴で普通の女の子だった。媚びるわけでも、同情を狙う訳でもなく至って普通。飾らない表情が強く印象に残った。媚び諂ってくる女達に慣れていた自分にとってはそれはどこか新鮮な感じがした。
「だいぶ飲んだなぁ」
空になった酒瓶を持ち上げて軽く振る。彼女は沢山頂いてしまってすみませんと謝ったがそんな事はどうだっていい。頬は仄かに赤く染まり、潤む瞳はとても色っぽかった。会話も少なくなってきた所で彼女の手を引く。彼女はすんなりと立ち上がりとことこと俺についてくる。一人用にしては大きめのベッドに二人でなだれ込んだ。
____
とても冷え込んだ朝だったが隣には温もりがあった。
「じゃ、仕事頑張ってね〜」
「休日謳歌して下さいね」
まだ外は少し暗いが、緩くウェーブのかかった髪を揺らしながら彼女は部屋を後にした。
コーヒーを入れながら昨日のことを思い出す。特に最中は変わったこともなく、至って普通だったと思う。でもふとした時に見せる彼女の物思いげな表情が強く印象に残った。目を離したらどこかへ飛んで行ってしまうような不思議な感覚。他の奴らが夢中になるのも分かる気がした。
「……普通に、ええこやん」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 459人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「wrwrd」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
あん(プロフ) - RUIさん» RUIさんはじめまして、素敵なコメントをありがとうございます。そのように仰って頂けて大変光栄です…！再び読んでくださったなんて本当に嬉しいお言葉です。ありがとうございます。引き続きパート3も楽しんでいただけたらと思います…！ (2019年8月21日 20時) (
レス) id: 2a14f29560 (このIDを非表示/違反報告)
RUI(プロフ) - 修正前から拝見しておりました。この作品は私が出会った中で1番印象的で大好きな作品です。少しの間占ツクを離れていて最後に読んだのは半年ほど前でしたがほとんどの内容を知っかりと覚えていました。続きが公開されるのを今か今かと待っています笑大好きです！ (2019年8月19日 0時) (レス) id: 58d14c974b (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
