当たり前 ページ25
数日に渡る検査も終わり無事に退院する当日
病室には当たり前のように銀八先生が来てくれていて、その当たり前が懐かしくて嬉しくてしょうがない
そういえば左手の薬指の指輪は検査室には持ち込めず、再び銀八先生の元へ戻って行った
八「忘れモンないか」
「うん大丈夫」
八「じゃあ行くか」
幻の世界では手を繋ぐのも躊躇ってぎこちなかったのに、
現実の世界ではこんなにもスムーズに手を繋ぐことができる違和感につい笑ってしまう
先生にはツッコまれたけど私しか知らない世界だから仕方ない
銀八先生の背の低い車の助手席に乗り込む
今では当たり前だけど、学生の時は助手席に乗るのに憧れて、学校終わりに送ってってなんて無茶を言ったこともあったな
車の運転をする先生の姿を見るのは久しぶりで、かっこよくて、私はまた先生に恋をする
車を走らせている方向は私たちの家かと思っていたけど、どうやら違うらしい
見たことのある道、風景が窓の外を流れ始める
向かってる先ってもしかして…
八「ほら着いたぞ」
「ここって…」
車を降りて先生に手を引かれるままある場所へ向かう
先生の手なんか借りなくても行く場所は分かってる
高校生の時に夢にまでも見た校舎内で銀八先生と手を繋いで歩くことが今になってやっとできて感動すら覚えている
今日は休みらしくて他の先生も生徒もいないシンと静まった学校
そして通いなれた思い出の部屋——国語準備室
がらりと変わらない扉を開ければ慣れ親しんだ資料と煙草の入り混じる香りと恋愛ごっこを腐るほどした小さなソファ
「うわあ…全部あのままだ」
八「変えんのも面倒だからな」
「先生らしいね」
八「まあそこ座れや」
小さなソファに座るように促されたとおりに座れば、当たり前のように銀八先生も隣に座る
かと思ったら銀八先生は私の前にしゃがみ上目遣いをして私を見つめる
八「A起きてくれてありがとな
もう起きねぇと思って柄にもなく焦ったぜ」
「ごめんね?待っててくれてありがとう」
八「お前が待ってた時間に比べたら屁でもないわ」
「私だけじゃなくて先生も待ってたでしょ?」
八「まあな
…とにかく俺が言いたのは…」
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作者名:るう | 作成日時:2022年9月3日 22時