55話 ページ7
「城戸さん」
私に目線を合わせるためにしゃがんでくれる城戸さんの名前を呼ぶ。
何?と笑い返されると、ここにいるという実感が湧いてくる。
「真司でいいよ」
そう言って私の頬をつついた。
城戸さんはいつもそう言うけど、どうしても呼び捨てになんてできない。
「でも年上の、しかも助けていただいた方の名前を呼び捨てには…」
虎太郎とか始は例外。
「そんなの気にすることないって」
「でもでも!」
しばらく足を抑えていた虎太郎が、城戸さんと話している私の背中をつついた。
「Aちゃんどうしたのさ、本当に…」
呆れたような、微妙な顔で私にそう聞く。
「どうもしてないよ」
左手のことなら、虎太郎が悶絶している間に説明した。
一応聞いてみるけど、やっぱりそのことじゃないらしい。
「Aちゃんがそんなに人になつくことなんてないわよ。剣崎君以外で」
栞さんがお兄ちゃんを一瞬見て、次に城戸さんを見る。
確かに私がお兄ちゃん以外の人に抱きつくことなんて城戸さんぐらいにしかしないけど、そんなに気にすることだろうか。
「お兄ちゃんが一番だよ?」
城戸さんも好きだけど、一番は何があろうとお兄ちゃんだ。これは譲れない。
「まあ毎日一緒にいるし当然だろ」
ふたりで顔を見合わせて笑う。
やっぱりお兄ちゃんがいないと調子が出ない。
「城戸さんはこう、何となく?」
お兄ちゃんはたぶん毎日一緒にいるのが理由の半分くらいを占めているんだろうけど、城戸さんの方は明確な理由はない。
「何となくって…」
城戸さんも虎太郎も一緒になって私を見た。
聞いた栞さんも納得していない。
「何となくは何となくだよ!」
どうも煮え切らない様子の城戸さんに駆け寄ってその手を握る。
「私城戸さんのこと大好き!」
「Aちゃん…!」
城戸さんはそれでもういいらしい。
お兄ちゃん、虎太郎、栞さんがえぇ…とか何とか言いながら3人で顔を見合わせている。
こっちはこっちで花でも咲きそうな雰囲気だ。
少しの間そうしていると、お兄ちゃんに体を持ち上げられた。
「A帰って来い」
そして城戸さんの頭を軽く叩く。
「お前もだ、馬鹿」
すると城戸さんも我に帰り立ち上がって、いつもの調子に戻った。
「馬鹿って何だよ馬鹿って!」
普段から馬鹿と言われ慣れているはずなのに、いつもそうして突っかかる。
「頭よくはないだろ」
あと背も小さいしな。と言って自分と城戸さんの背を比べた。
「それ今関係ないだろ!」
争う内容がくだらなくて笑ってしまう。
結局似たり寄ったりというところなんじゃないのかな。
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デリート(プロフ) - しおんさん» ありがとうございます。最近ビルドの方しか更新できていませんが、絶対に完結まではたどり着かせます! (2018年8月27日 20時) (レス) id: d5c354ea8b (このIDを非表示/違反報告)
しおん(プロフ) - 文章も表現も凄く上手くて一気に読んでしまいました!笑アンクとのやり取りがたまらなく胸きゅんします!更新楽しみにしてます!! (2018年8月27日 20時) (レス) id: 42e4f273a7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:デリート | 作成日時:2018年2月15日 18時