61話 ページ13
｢アンク、じゃーん！｣
朝から大声で喚くAの顔をちらりとだけ見てまた目を閉じる。
｢煩い｣
そうは言うが、別に鬱陶しいとは思わない。
変な気分だと思いAをもう一度見る。
｢そっかいらないか｣
その両手には色違いのアイスキャンディー。
｢…ちっ、さっさと寄越せ｣
部屋を出ていこうとするAを呼び止めた。
｢はいはい。アンク本当にアイス大好きだね｣
手を差し出すと、一本を渡される。
｢ふん｣
そんな会話を何度も交わした。
世界がどんなふうに見えるか、俺の姿はどう見えるか、そんなことも聞いた。
するとあいつはいつもいちいち細かく答えて、話すことが楽しいという様子だった。
そして"お兄ちゃん"の話をするときだけは笑顔で、まるで別人のようで。
あいつといると、俺の欲望が何だったのかわからなくなる。
満たされたような気分になるから。
800年前に失った少女が帰ってきたような気になるから。
｢アンクってAちゃんのことけっこう好きだよな？｣
そんなことを映司に聞かれたこともあった。
別に好きだとか、そういうものがあるわけじゃない。
自分の気を紛らわすためにあいつを利用しているだけだ。
バキ
小さな音をたててアイスの棒が折れた。
｢くっそ…！｣
それがあいつがいなくなった途端にこれか。
800年前に奪われた世界も、一時凌ぎではあるが取り戻したというのに。
見える世界も、色も、音も、味も、全部揃っている。
足りないのはAただひとつ。
ひとつだけで、こんなにも苛々する。
｢映司、まだか｣
｢それ5回目｣
どこで知ったかは知らないが、映司はあいつの居場所がわかると言った。
しかしその場所へ向かう道中が長くて余計に苛立つ。
｢まさか電車とバスの乗り換えがこんなにあるなんて思ってなかったしなあ…｣
映司はため息をついて時計を見る。
クスクシエを経って既に5時間。
いつになったら着くのやら。
｢映司、アイス寄越せ｣
今の焦燥感を抑えてくれるものはそれしかなかった。
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デリート(プロフ) - しおんさん» ありがとうございます。最近ビルドの方しか更新できていませんが、絶対に完結まではたどり着かせます！ (2018年8月27日 20時) (
レス) id: d5c354ea8b (このIDを非表示/違反報告)
しおん(プロフ) - 文章も表現も凄く上手くて一気に読んでしまいました！笑アンクとのやり取りがたまらなく胸きゅんします！更新楽しみにしてます！！ (2018年8月27日 20時) (レス) id: 42e4f273a7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：デリート | 作成日時：2018年2月15日 18時
