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「お願いいたします」
「……」
「ルシウス様。私はどうなっても構いませんわ。だから、あの子だけは、どうか」
「わかった。言わないことを約束する。確かに、あの小さな子に罪はない」
「ありがとうございます」
「ただし、それ以外のことで父を欺くなよ」
そうすれば、彼女はにこりと微笑んだ。まるで周りに花が飛んだような、まるで人形のような、作り物のように美しい笑みを浮かべる。
「もちろんですわ。命に変えて、お約束いたします」
その笑みと、その言葉に、やはりマリア・シャフィクの忠誠心は本物だと思うのだった。
「お姉さま、お菓子を持ってきました」
「まあ、ありがとう。フラン。いい子ね」
優しい手のひらに撫でられたフランは、ちらりと私を見上げる。そしてすぐにマリアの後ろに隠れた。
「あ、あの、ルシウス様」
「なにかね」
「エイブリー婦人が、これがルシウス様がお好きだと教えていただいて」
小さな手指を動かして、皿のはじにあるチョコレートケーキを指差す。それを見て、私は思わず眉を顰めた。
「まあ、フラン。ルシウス様はこのチョコレートケーキがお嫌いなのに」
「いや、構わない」
顰めた眉をすぐに隠して、私はそれに運んだ。
放っておけば、すぐに大人の嫌な部分に飲み込まれてしまいそうなこの小さな少年を、守ってあげようと思ったからだ。
「ありがとう、フラン」
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作者名:あんころころもち | 作者ホームページ:
作成日時:2020年8月7日 0時