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「そんなことないわ。可愛いフラン。でもあの方の前では、そう言わざるを得ないのよ」
優しい声に、私は釣られるようにそちらを見た。そこにはフランと視線を合わせるように座り、その瞳を覗き込んでいるマリアの姿があった。
「ほら、笑ってちょうだい。私はあなたの笑顔が大好きだもの」
ね？と微笑みかける。しかし相変わらずフランの方は、下を向いたままだ。
「でも、」
「……」
「私は女の子じゃないもん」
「は？」
思わず声が漏れた。先ほど父上に姪だと紹介していたはずのその娘の姿をした人物は、今その小さな口で、自身を女ではないと言ったのだ。
「……るしウス様。いかがなされましたか？」
初めにあったように見えた動揺は、すぐに隠れる。気のせいであったのではないかと思うくらいに、彼女はいつものように微笑んでいた。
「いつから、そこへ？」
「先ほどだ。どう言う意味だ、マリア。それは我が父への、強いてはマルフォイ家への、叛逆にあたるぞ」
「……」
状況が読み込めたわけではない。しかし精一杯、面子を守るための去勢を張る。ここで、動揺を見せてはそれこそダメだろう。
「……」
「早く答えろ、マリア・シャフィク」
「どうかお見逃しくださいませ。ルシウス様」
「……」
まさか、マリアがそのように言うとは思わなかった。いつものようにふんわりとした可愛らしい姿で、ぼやかしてしまうのだと思っていた。
しかし目の前にいる彼女の顔から笑顔は消えていて、代わりに訴えかけるような必死さがある。
「それは、」
「ええ、そうです。わたくしは愚かにもあの方を欺きましたわ。ですが、ですが、どうか、黙っていてはいただけないでしょうか？」
「……」
彼女の意図が分からず、私は黙る。そうすれば、彼女は小さなフランに声をかける。
「フラン。あちらへ行って美味しいお菓子をお姉さまに取ってきてくれないかしら」
「えー」
「お願い。ね？いい子だから」
「……はあい」
渋々了承すると、フランは少し私の方を睨んだ後で室内へと入って行った。
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作者名：あんころころもち | 作者ホームページ：
作成日時：2020年8月7日 0時
