【あんスタ】兄嫌いと兄者嫌い【男主】

Episode９＋救世主とは＋ ページ10

「瀬名君、廊下を走ってはいけませんよ」

見知らぬ女よりも先に見知った少年に声を掛けた男。ブリッジを片手で押し上げ、目を細めた男は、よく通る声でそう言った

いつもならば、"瀬名" という名に反応して、舌打ちの一つでもしてやるところなのだが、今はなんともそんな悠長なことができる状況ではない。とにかく、目の前の女を捕まえないことには、休息の一つも取れやしない……

なりふり構っていられない、そう判断した少年は、声を張り上げた


『椚先生！その子、捕まえて…っ！不法侵入だからっ！！』

急を要することだと即座に理解した男は、脇目も振らず走っている女をいとも簡単に捕まえた。じたばたと暴れ、身を捩る女を抑え込む姿はさながら柔道経験者のようだった

そこへ、少年の後ろから、息を切らせた警備員が走ってきた
警備員は少年へ声を掛けたのち、先生の元へ向かい、女を連れて去って行った


ろくに説明もせずに去って行った警備員に対し、多少の不信感を抱きながら、先生と呼ばれた男は少年に尋ねた


「瀬名君、あの女子生徒は一体……？」

『……僕も詳しくは知らないですけど、プロデュース科の生徒だと名乗って、不法侵入していたみたいです…うちの学校の制服を着ていたので、警備員の門の所を潜り抜けたみたいで…』

「目的は？」

『アドく、アドニスくんのファンだって言ってましたよ。サインが欲しいって』

あと、これ……と、先ほどの女が持っていた資料を先生に渡し、少年は踵を返した
そんな少年に先生は待ちなさいと制止を促した



「瀬名君、怪我はありませんか」

何故分かったのだろう、と少年は不思議に思った。けれども、断定的ではない物言いからして、
あくまで危害を加えられていないかの確認でしかないのだろう
そう考えた少年は、いいえと首を横に振った


「では、朝礼の後、私の所へ来るように。乙狩君にも伝えておいてください」

そうきっぱりと言い切ると、職員室へと入って行った先生を見送って、少年はやっと自分の教室へと戻ることができた


教室に戻れば、もう教室には、クラスメイトが揃っていた
不法侵入者の騒動があったせいで、早く来たにも関わらず、無駄な時間を過ごしてしまったと、溜息を吐いた


なんとなしに自分の席に着き、一時限目の準備をしながら、ぼうっと一点を見つめていると、
いつのまにか予鈴が鳴り、担任が教室の中へと足を踏み入れていた

Episode１０＋痛むのは＋→←Episode８＋ファンだというけど＋

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す