「」I miss you…【MS】 (ページ23)

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それから僕がお酒を飲む事を知らなかった彼が、少し寂しそうな顔をした。此処に来ていた頃まだ君は年齢的に飲めなかったからね。でもきっとテーブルにあったら飲みたがっていただろうから。

「これからはこうして飲んだり出来るんだね」

「大人、ですから」

彼は会話の節々に“大人”である事を挟んだ。確かにあの頃より体つきも変わったし年齢も立派に大人になった。もう子供じゃないんだね。でもあの頃と変わってない。
僕に対する気持ちがどうかはわからないけれど、テーブルに並ぶ物を美味しそうに食べるところも、気になる単語に敏感に反応するところも、“君”と呼べば納得いかないとでも言うように眉毛がピクリと動くところも。

既に自惚れではないものを手の中に収めつつアルコールでお喋りになった彼を誘導する。脳に刻んだ僕との時間を引っ張り出すように。僕が彼に与えた愛を、思い出させるように。すれば、彼は、ずっと忘れられなかったなんて言った。名前を呼んで欲しかった、とも。
多感な頃に植え付けた記憶は僕が思っていたより色濃く彼の中に在って。あの日、拒絶されたと思っていた彼は、それでも僕が「一瞬のこと」だと冷たく言い放った日々を大切に大切に持っていた。まるで真空パックにでも入れて保管するかのように。

僕が彼を名前で呼び、彼が僕を名前で呼ぶ。それだけの事で、また時間が色彩を帯びた。
身に覚えのない結婚の容疑を掛けられたりもしたけれど、今度こそ彼を手元に置く為の良いきっかけになったから良いとする。

悪いけどもう僕には君しかいないんだよ、なんて恥ずかしいくらいに甘い行為のあと隣で先に眠ってしまった彼に呟いた。
髪の色はもとより、顔つきもあどけなさが抜けて変わったなぁと時間の流れを感じていたけど寝顔はあの頃と大して変わっていなかった。

頬の下に手を入れて眠る無防備な愛おしいひとを抱き締めようとして、タオルケットの下で彼が僕のTシャツの裾を握っている事に気付く。
どこにも行かないよ、可愛いひと。唇を寄せればやわらかく笑って、しあわせな夢をみている事が窺い知れた。