「」I miss you…【MS】 (ページ20)

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「なんかもう大丈夫そーだね」

智君がそう言ったのは、翔くんと離れて三度目の卒業式の日だった。放たれた言葉に主語が無くとも、どういう意味なのかわかった。
この年のその日、僕は泣かなかった。

やがて智君からの連絡も徐々に間隔が空くようになって、それでも会うことはあるけど体を開くことはなくなった。
僕が酩酊することも、すっかりなくなっていた。一人暮らしを始めた時からずっと使っていたソファを、捨てた。

それから今に至るまで“最後”に会った日、夏が始まったばかりの頃。僕の家の割と近くで飲んでいたという智君が連絡を寄越したから、それなら寄っていきなよと招き入れた。
梅雨明け宣言から数日、日中はアスファルトから陽炎が立ち上るけれど日が暮れて夜も更ければ風が心地良かった。月の綺麗な夜だった。

「心にもあらでうき世にながらへば、」

歌うように詠まれた上の句は、ほろ酔いの耳に心地良かった。

「三条院だ」

「さすが国語の先生だなぁ」

「現代文担当だけどね」

心ならずも生き長らえてしまったなら、なんて現代訳に始まる部分だけしか詠まなかった意味を僕はわかっていた。それでも智君の隣で生きることを、僕は選べない。智君も、それをわかっていて。
無責任にも、彼が下の句を詠める日がきたら良いなんて思ってしまう。いつか今夜の月を、二人で眺めている月を懐かしく思える日がきたら良いと。僕を思い出にして欲しい、と。