12 ページ12
体をも奪った後、彼は何度か「すき」と言ってくれた。僕は、同じ気持ちであるのにそれを言葉に出来なかった。言ってしまったらいよいよ彼から全てを奪う事になる。未来をも。
もし仮に、だから僕がその二文字を言わないんだと理由を伝えたとして。きっとそれでも厭わないと返ってくるのは想像に容易かった。全てを奪うというのがどれほどに重い事なのか、彼には知り得ないから。
宗教観的な事はさておき、同性を愛するという事に関してだけを言えば何の罪でもないのに、日常に付きまとう罪悪感を彼にも背負わせるだけの勇気がなかった。
初めてキスした日を覚えていた彼が、記念日だと言ってそれを強請った。甘酸っぱい気持ちがうれしくて、くすぐったくて、その唇はやわらかかった。
彼の誕生日、何をあげたら良いのかさっぱりわからずに悩んだ挙げ句ちょっと良い所のピアスをあげた。大人だという事を誇示したわけではなく“特別”を表す方法が他に思い付かなかった。
左耳に光るピアスをうれしそうに触っては顔を緩ませるのが可愛かった。そこに唇を寄せれば「くすぐったい」と笑った。君といる時の僕は常にそんな気持ちなんだよ、とは伝えられなかった。
たったの二文字も言えないんだから、これ以上は期待させてはいけないと自分に言い聞かせていた。
ある時、僕の気持ちを知る由もない彼は未来を疑いもせず「ずっと一緒にいよ」と、言った。
僕より10と少し若い彼の言う“ずっと”の尺度がどれくらいかはわからないけれど幼い価値観から推察するのであればそれは恐らく、死が分かつまでの事。出来れば二つ返事で頷きたかった。出来なかった。
せめて、そうあって欲しいと願いを込めて「そうなるといいね」なんて濁して抱き締める事しか、出来なかった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 183人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「嵐」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：7oh
| 作成日時：2019年7月13日 20時
