「」I miss you…【MS】 (ページ5)

今日:1 hit、昨日:0 hit、合計:62,922 hit

5 ページ5

或る冬の日、僕は調べ物のために図書室に足を運んだ。ちょっと確認する程度の事だったけど一応図書委員の生徒に声を掛けて目的の本がある棚へ向かうと、途中に並ぶ机で一人ぽつんと真剣に読書をしている彼を見付けた。わざわざ昼休みにこんな所で本を読むほど、読書が好きなのかという意外性に心が擽られた。
うちの学校は冬場に指定のセーターやカーディガンがないから個々で好きな物を、校則の範囲内で着て良い。そんな括りの中で白っぽいセーターを着て、肘まで袖を捲っている彼が何だか可愛かったのを覚えてる。

それからもたまに用事を見付けては図書室に通って、気が付けば彼の姿を探していた。
話し掛けようかと思ったこともあるけど如何せん当時まだ何の接点もなく、どういう会話をして良いかわからなかった。唐突に担任でもなければクラス担当でもない教師から当たり障りなく「何を読んでるの？」だとか聞かれても困るだろうし。

この興味は、好意なんだろうなと薄々気が付いていた。それまで生徒に心を奪われたことなんて一度も、一瞬もなかったのに。どうしてだったんだろう。表面上わかり得ること以外は憶測や想像でしかないのに、だから、もっと知りたいと思ってしまっていた。

その頃、いつもの気紛れで僕を呼びだした智君に“気になる人がいる”と伝えた。そっかぁ、と笑っただけだった。そういう人だった。

春になって僕は目出度く翔くんのクラス担当になる。図書室や廊下でしか見られなかった彼を、週に何度かの授業で必ず見られる。発想としてこれは少しマズいというか、気持ち悪いなという自覚はあった。でも嬉しかった。
真剣に授業を受ける姿、恐らく無意識にペンを回す癖、積極的に質問してくるところ、音読の順番が回ってきたら凛とした声ですらすらと読むところ、黒板や提出物に書かれた文字。知り得なかった事を一つずつ知れるのが、嬉しかった。

やっぱりちょっと我ながら気持ち悪いな。

6→←4