21 ページ21
てきぱきキッチンからグラスとワインとオープナーを持ってきて、それからチーズとか生ハムとか色々うまそうなやつをテーブルに並べる様子を眺めた。
ここへ来ていた頃は遠慮していたのかテーブルに酒が置かれる事はなかったから。俺の知らない先生の日常を見ている気分で変な感じがした。
じっと見ている俺の視線に、先生が気付いた。
「ん？」
「酒、飲むんですね」
「うん。割と好きな方だよ」
知らなかった。なんか、知らないひとみたいだ。俺が側にいた頃も、普通に嗜んでいたんだと思うと如何に自分が見ていた世界が狭く小さいものだったのか思い知らされる。
「こんなもんかな。足りなかったら冷蔵庫にまだあるから」
「あ、はい」
乾杯、とグラスを合わせて妙な気分になる。こんな風にまた先生の家に来ることになるなんて思ってもみなかったし、一緒に酒を飲めるとか考えたこともなかった。そもそも二度と会えないと思っていたから、いまこの状況が現実じゃないみたいな気さえする。
「大学はどう？楽しい？」
「まぁそこそこには。でももう就活終わってるんで暇っすね」
「早いね、さすがだ」
「口は達者な方なので？」
俺もそんな“大人”な年に足を踏み入れたんだよ、と言うように片眉を上げて笑えば先生も笑う。
乾杯して程良く酒が回って、それでも当たり障りのない会話を続けていたのにグラスを傾けて言葉が途切れた次のターンで先生がそれを裂いた。
「そろそろやめようか」
「え、なに、」
「敬語。君が知らないひとになってしまったみたいで、少し寂しいよ」
眼鏡の奥の目が、少しどころではなく寂しそうに見えたのは、そうであって欲しいと思ってしまったからかもしれない。先生が自分の知ってる俺、を求めているんだと思いたかったからかもしれない。
「じゃあ俺のこと“君”って呼ぶのも今から無しで」
「…良いの？」
名前を呼ぶというのが、特別なことであるのは先生の中で変わってないんだ。お陰で俺は一時期、先生以外の人間から名前を呼ばれるのも君と呼ばれるのも嫌で。周りはそんなの知らないから、常に不機嫌な変な奴だと思われていた頃があるんだよ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 315人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「嵐」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
7oh(プロフ) - 薫さん、おはようございます！読んでいただきありがとうございます。褒めてもらえてうれしいです！ありがたきハピネスです！！葉山先生より少し色がある、っていうのグッときました。先生側の話もお楽しみに！ (2019年7月1日 8時) (
レス) id: c7b4c0e1dc (このIDを非表示/違反報告)
薫(プロフ) - 7ohさんこんばんは！いっきに読んでしまいました。翔くんの歳下なのに潤の扱い方とかチャラい外見とか、私の好きな要素がつまっててありがとうの世界です！潤は、葉山先生より少し色がある感じ…翔く素敵です。いいです。別バージョン楽しみに待ってます (2019年7月1日 2時) (レス) id: 93fa30b886 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：7oh
| 作成日時：2019年6月30日 21時
