1 ページ41
『夜だー』
カ「うん、人いないね」
小雨の降る深夜三時過ぎ。たまに通る車はだいたいタクシーで、そのオレンジ色のテールランプが水溜まりに映る。きらきらしていて無意識に見つめてしまっていた。
日中はじめじめして不快だった空気が、魔法にかけられたみたいに神秘的で、夜が好きだと思う。
カ「気持ち悪くない?」
『…あのねえ、カクテル一杯で酔ってたら東京で生きられない』
カ「ははは、偏見だなあ」
『先輩はへいき?』
朝までやってるカフェで軽く飲んできたので、二人ともテンションが変。
カ「うん。…そうやってさあ、たまに俺のこと先輩って呼ぶよね」
『だって先輩だし。…やだ?』
カ「べつにー」
深夜の空気ってなんでこう、愛おしいのかなあ。
お酒のせいにして二人でぴったりくっついて歩く。先輩呼びもお酒のせいにしておこう。
歩きにくいなあ、って文句を言いながら先輩が大通りを目指してゆったり歩くので、帰っちゃうの、寂しいな、って。
『この前ね、つけめん食べた』
カ「いいじゃん」
『久しぶりに、たまねぎのツボがあるとこ』
カ「ふーん、どこにあんの」
『んー、いっぱいあるよ。この前は下北の、』
カ「え、なになんの用事で行ったの?」
『・・・・』
なんの、と言われると黙るしかできなくて。
だって、
カ「え、聞いちゃダメだった?」
『いや!そんなことは、』
そう答えながら目を泳がせる。こういうの、よくないっていうか、たぶん先輩はずっと覚えているだろうから。
意を決して深呼吸して、口を開いた。
『就職決まりまして、家を探してて』
カ「え``!!!!!!!!!!!」
小さな道から、大通りに出る曲がり角で声をあげた先輩は、通りを歩くカップルに見られて俯いて咳払いした。そんな姿を見て笑いながら、ありがたいことに、と続ける。
『だから、えーと、お世話になりました』
カ「え、え、よかったね!頑張ってるとこ見てたから、俺もなんかホッとしたかも。」
先輩は口元を片手で隠して、きらきらした目を大きく見開いたあと、目尻を下げてにっこりと笑った。
つづく
153人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
りい(プロフ) - 個人的に気持ちに余裕がなくて趣味を疎かにしていて、久しぶりに占ツクに来て、まっさきに学パロを拝見しました。社長室さんの小説、やっぱり好きです。素敵な作品を、癒しをありがとうございます! (2019年9月23日 4時) (レス) id: 23552ed598 (このIDを非表示/違反報告)
社長室(プロフ) - ちひろさん» コメントありがとうございます!素敵な感想、本当に嬉しいです〜ノリノリで描いていったというよりは、すこし苦しみながらできあがっていったので、幸せを感じていただけたことを心から感謝します。ひみつのほうもぼちぼちやっていますのでまた読みにいらしてください〜 (2019年7月27日 22時) (レス) id: 37f3407064 (このIDを非表示/違反報告)
ちひろ(プロフ) - 完結おめでとうございます!今更ながら、ひみつからきて読ませていただきました。もどかしい青春が詰まっていて、社長室さんの描かれるカンタくんととみなが先輩がたまらなく大好きです。とてつもない幸せに包まれました。ありがとうございます。 (2019年7月26日 11時) (レス) id: 04f6d975f4 (このIDを非表示/違反報告)
社長室(プロフ) - じょん、さん» コメントありがとうございます!学パロで終わらせておけばよかったのに大風呂敷をひろげて2に続きまして、リアルタイムで呼んでくださった方にはご迷惑をおかけしました…!短編のほうは地道にやりますので、またお暇なときにでも覗いてやってください! (2019年7月5日 0時) (レス) id: 37f3407064 (このIDを非表示/違反報告)
社長室(プロフ) - 名無し9253号さん» お付き合いくださりありがとうございました! (2019年7月5日 0時) (レス) id: 37f3407064 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:社長室 | 作成日時:2019年6月5日 11時