【歌.い.手】男装歌い手はじめました【そらる】 (ページ10)

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#10 疲れたからページ10

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なんとか撒いて、屋上にたどり着いた。

当の彼方さんはぜえはぁ言ってる。

「…ごめ…俺インドア派だから…」

あ、なる。すまん彼方さん←

軽い？気にすんな

『…で、話ってなんですか？』

女のあたしと、男の彼方さんじゃ身長差が大きい。

少し上を覗き込むような形で、彼方さんに問いかける

ちゃんと声、兄になれてるかな

不安がドッと押し寄せて来る

息を整えた彼方さんは、小さく口を開けた

「…歌い手の、こききさんですよね」

『え』

まさかの、まさかの

男装のことではなく、歌い手の方だった。

確かに、歌い手活動は兄の姿でやってる。声もそう。一応両声類として。

でもマイナーだよ、ほんとに。
リスナーは数えることができるほど。

なのに、なんで

「俺、そらるっていうんだ」

『え』

本日2度目の驚き。

そらるさんて、あのそらるさん？？
有名歌い手の…？

『え、うそ…でしょ、』

あまりの驚きに少し素の声が出たことにあたしは気づかなかった。

「ほんとだよ。…ほら」
そう言って彼方さんが見せてきたスマホの画面は、そらるさんのページ。
アイコンの隣に編集があるから、本人で間違いない。

『…え、でも、なんで、気づいて』

彼方さんがそらるさんであることは信じる。
でも、なんであたしの声に気づいたんだろう

「…おとといの配信、少し鼻声だった」

おととい。
彼方さんと、真冬さんに出会った日

家に帰ってお風呂に入ったあたしは、少しの間配信してた。
確かに、少し寒さで鼻声だった。

その時、そらるさんがいたってこと…？

いや、今思い返すとすっごい恥ずかしいな
きっと今、顔真っ赤

それを見兼ねた彼方さんは、さらにいじりを加えてきた。

「それに…なんで男装してるの」

あっちゃ～～男装してることまでバレたか。
まぁ、ここまでバレちゃあ仕方ないよね

『…女でいるのに疲れたから』

学校に来れば、人間扱いされない。

家にいても、お母さんは兄のことを忘れられない。
お父さんは、兄の死から部屋から出てこない。

そうだよね、あたしより、兄の方が優秀だったし、親孝行してたし

『あたしが…兄ちゃんが、あたしなんかを庇ったから…』

ずっと心の中に秘めてた言葉をいざ口にすると、心臓を貫かれた感覚に襲われる

でも、自然と涙は出なかった。

昔話をするように、彼方さんから目線を逸らし、校庭へとやる。

そんなあたしを見る彼方さんは、兄に似て…なくもなかった

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