理性と野性は相容れない【花宮真】

地縛霊―18― ページ18

「おい、いつまでそこにいるんだよ」




部屋に誰もいなくなった後、ベランダの柵に座って外を眺めているAに声をかけた




『女の子、追いかけなくていいの？』


「……余計なお世話だ」




高崎には「今は彼女を作るとか興味ない。……それは高崎も例外じゃねーから」と言ってシャツを掴む手を振り払った

すると、高崎は何も言わずそのまま部屋を飛び出していった




『可愛いのに、勿体ない』


「それだよ」


『え？』


「あいつは"自分は可愛い"と自覚している。それで俺に目を付けた。どうせ俺自身ではなく、俺のステータスを選んだんだろ。自分の見栄の為に俺を選んだ。……それだけの為にここまでわざわざ来たと考えたら、吐き気がする」




俺がそう答えると、Aは少し驚いていたが、すぐにいつものようにふわりと微笑んだ

まるで、俺すら知らない、奥の奥まで見透かしているかのように




『いつか、心から真の事を愛してくれる人が、現れるよ。絶対』




俺はそれを聞いて、拳を握り締める

こいつは何を根拠に絶対なんて言っているんだとか、人の話を聞いていたのかとか、無責任な事を勝手に言うなとか……そんな怒りが込み上げる


いや、本当は、そんな事はどうでもいい

俺はAからその言葉を聞きたくなかったんだ。他の誰に言われたってかまわない。ただ、こいつにだけは言われたくなかった

俺はただ、理不尽に怒っているだけ

こいつに他意がない事はわかっている

それでも、Aじゃない誰かの話を、こいつの口から聞きたくない




「そんなもの……現れねーよ」


『ふふっ、真は気付いてないだけだよ。だから、ちゃんと探して？世界は広いんだから……早くしないと、あっという間におじいちゃんになっちゃうよ』




黄昏の夕陽に照らされるAの髪が、黄金色を纏い風になびく

その時、Aの一言により、俺の思考は一瞬で凍結したかのように固まる




『ねぇ、真……。私、成仏したい』

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