12.感情 ページ15
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エトにキャリーバッグを預け、自室へ戻る道。
目の前に現れた白い壁に、一瞬体が強張る。
アオギリの樹幹部の一人、タタラだ。
「遅かったな。」
『デートしてきた。』
「は?」
『嘘に決まってんだろ。』
「…。」
赤いマスクの下に隠れる顔が、少しだけ怪訝なものになった。
幹部だからといって、誰に対しても敬語を使わなくて良いわけがない。
寧ろ、私は使うべき立場なのだ。
…まあ、そこらへんの理由はまたいつか。
『美紅達に連れられてコーヒー飲んできた。
序でに、嫌ぁな奴にもご対面してきた。』
「…そうか。」
一つ言い残し、タタラは私の横を通り過ぎる。
ふわり、微かに鉄っぽい匂いが私を包んでいく。
誰の血の臭いだろう。
そんなに濃くないから若者かな、にしては錆が強い気がする。
20代後半か30代前半の女かな。
『"探ってきた"のはどっちだよ。』
あれほど関わんなっつったのに。
痛い目見るのはお前だって、忠告したのに。
「…あ。」
『ん?』
タタラが去っていった方向、つまり私の後ろ。
そこから一人の女子の声が聞こえた。
声の主は私に近づき、数時間前と同じように抱きついた。
「おかえり、なさい。」
『ただいま。
悪かったな、遅くなてって。』
「ん、ん、美紅姉も、部屋にいる、って。」
またあいつは勝手に人の部屋ん中に入りやがって。
あれだけ痛めつけてやったのに、懲りない奴だ全く。
『眠そうだな、兄さんは?』
「A姉、探して、た。」
嫌な予感しかしねぇ。
会いにいくのが最善策なんだろう。
だが、身の危険を感じる。
一度、帰りが日付変更線を越えたことがあった。
そんなことがあり、二日間は軽くうだうだ言われたのだ。
あの時の辛さといえばもう、特等捜査官と対峙した時並みの面倒事である。
『分かった、先に絢都に会いに行くわ。
沙絢はどうする?』
「……美紅姉と、いる。」
『ん、じゃあ、後でな。』
「ばい、ばい…。」
もう一度服をギュッと握られた後、素直に離れていく人の体温。
恋しいだなんて思っていない。
タッタッと軽やかに走っていく沙絢に、少しだけ羨ましさを感じた。
どうせお前は姉貴と兄貴に守られて、何の苦も酷も知らずに生きてきたんだろ。
私の身にもなってみろ。
"知ってるはず"なのに"知らない"。
私をこれ以上、惨めにしないでくれ。
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抱いてはいけない感情。
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ロンリーアクエリアス(プロフ) - ぽぴいいいいいいいい!!!!!!! (2017年7月18日 13時) (レス) id: 1e3e402f09 (このIDを非表示/違反報告)
羊希(プロフ) - そうだぁ!! (2016年3月27日 13時) (レス) id: 316e3f7b35 (このIDを非表示/違反報告)
ロンリーアクエリアス(プロフ) - そうだそうだあ! (2016年3月24日 14時) (レス) id: 1e3e402f09 (このIDを非表示/違反報告)
皇シキ - 続きはいつになるです?早く、早くですよ!(^o^) (2016年3月22日 11時) (レス) id: ae9b578306 (このIDを非表示/違反報告)
夜宵(プロフ) - 『REVOLVER』を『YouTube』で検索!! (2016年2月26日 15時) (レス) id: 8c56ce6439 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:雄飛 | 作成日時:2015年5月8日 18時