#036 ページ38
【哲side】
「あーっ!!疲れたー!!!」
「お疲れ様、A」
「てっつん!!丁度良かった!!お願いがあるんだけど……」
今日は部活はオフだったのものの、そんなことお構い無しに皆各々自主練をしていた。
実践形式の練習で慣れないピッチャーをしたAは普段より疲労が溜まっているようだったが、
結局寮の食堂で夜ご飯もいただき、その後2年の日課となっている素振りにも参加をしていた。
「お願い……なんだ?」
「今日家まで送ってください」
パシッと音を立てて顔の前で手を合わせるA。
「なんだ、そんなことか……もちろんいいぞ」
「ほんと!?ありがとー!!」
俺の返事にぎゅーっと抱きついてくるA。
「普段だったら普通に帰るんだけど、亮介と見た映画思い出したらちょっと怖くてさあ……。
亮介に頼もうかと思ったんだけどまた馬鹿にされそうだし」
「お前達は本当に仲が良いな」
「え、今仲良しの要素あった?」
笑いながら一緒に歩き始める。
ガサッ
「わっ……!!」
楽しく話をしていたらふと茂みから物音がする。
ニャー
その音の正体は猫だったようだがAはかなりビックリした様子だ。
「なんだ猫か……ビックリした……」
それからもびくびくしながら歩き続けていて、いつしかいつもの笑顔も消えていた。
「そんなに怖い映画だったのか?」
「うん……元々苦手だからね……
しかもその映画のシーンで、丁度こんな道を歩いて振り返るとお化けが……」
そう言って自分で怖くなったのかバッと勢いよく振り向くA。
こんなに、怖がらせて……亮介にはあまりからかわないように言っておかないといけないないな。
俺は手を伸ばすとAの手を掴む。
「!!……てっつん?」
俺の手が触れた瞬間ビクッと肩を震わせたが、手を繋いだだけだと状況を把握すると小さく首を傾げている。
「あ、すまん。こうして手を繋いでおけば少しは怖さも紛れるんじゃないかと思ったんだが……」
「………あはは、ありがとう!心強い!」
ようやくまた笑ってくれたAに、俺も微笑むとまた他愛の無い話をしながら家へと送った。
「てっつんありがとー!私の家の方が遠いのにごめんね。
お陰でなんとか帰ってこれました……
てっつんも気を付けて帰ってね!!」
「ああ、また明日な」
手に僅かな温もりを残したまま俺は自分の家へと帰った。
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作者名:げび | 作成日時:2016年6月6日 11時