オススメは?(sgi) ページ7
「っ最低!!」
バシャッとふり被ったのは冷たいアイスコーヒー。ホットじゃないだけマシだな、なんて思えるくらいには頭は覚めている。目の前に居たはずの人影は消えていて隣からは堪えきれない笑い声が聞こえてくる。
「あはは、大丈夫?」
「…服シミになったら弁償ね」
鞄からハンカチを出して拭いていれば一部始終を見られていたであろうウエイトレスのお姉さんにおしぼりを渡され、お礼と謝罪を告げる。
「えっと、通報とかした方がいいですか?」
「大丈夫です。もう解決したので」
得意気に笑う隣の男にため息をつきながらも“今日のメイクはウォータープルーフで間違いなかった”と考える私もなかなかに図太い神経してるな、って自覚はある。
「最低なのは私じゃなくてあんたでしょ」
「ん?勝手に彼女面する向こうが悪いじゃん」
「毎回私に被害が来ることわかってる?」
「悪いとは思ってるんだけどねぇ」
本当に悪いと思っているんだろうか、この男は。水をかけられたり、叩かれたり、なんで全部矛先は私に向くのだろうか。浮気したこいつが悪いはずなのに。
まあ、どう頑張ってもあなたは“遊び”でしかない、って本人に伝えてしまう私も悪いのかもしれないけど。事実を伝えて何が悪いの?って開き直る私も大概か。
「あらら、今回もまたやられちゃったねえ」
「笑いごとじゃないですよ、須貝さん」
どうぞ、と差し出してくれたタオルを受け取る。外の暑さもあって服は大体乾いてきた。髪はベタベタを通り越してガチガチに絡まっている。髪の毛を給湯室で地道に解す作業には慣れてしまった。
「にしても何でそんなにあいつに拘るの?あんな最低なやつ別れればいいのに」
「最低って…まあ事実ですけど」
「何か弱みでも握られてんの?」
「そんなんじゃないですよ。強いて言えば…」
「なに?」
「惚れた弱みってやつですかね」
「…聞いた俺がバカだったわ」
惚気なんていらねえ、って嘆く須貝さんは老若男女問わずモテる。モテるのに特定の恋人を作らないのは社内随一と言っていいほどの謎。
「知ってる?広報にもお相手居るってよ」
「あー、これやったのその人です」
「なーんだ。じゃあ先週の合コンでお持ち帰りしたっていう人は知ってる?」
「お持ち帰り程度なら日常茶飯事なんで」
ワンナイトで終わる相手にまで怒る神経はありません、と言えば須貝さんはつまらなそうに笑う。
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作者名:亜杞 | 作者ホームページ:
作成日時:2023年6月3日 18時