第四百十七話 望まれなかった ページ6
彼のその目と目が合った。今まで私に向けられていた優しい瞳はそこにはない。彼は熱が冷めたような目を、私に向ける。
「 …やあ、久しぶりだね。A。」
彼に名前を呼ばれただけで泣きそうになってしまった。会うとやっぱり実感してしまう。彼への想いを。
「 君にも驚かされたよ。ただの能天気な馬鹿だと思いきや、行動は冷静で、誰よりも周囲を見ている。発想の鋭さも僕にヒケをとらない。大方、僕の裏切りに最初に気付いたのは君だろう?」
こくり、と頷くと彼は「やっぱり」と笑って見せた。
「 君たちは本当に僕の理解を越えている。あと数年早く出会えていれば、何か違ったのかもね。」
なんで、そんな悲しい顔をするの。
あなたは、何に縛られているの。
「 明智、あんた… 」
「 でも、タラレバの話してもしょうがないよな。現実はそうならなかったんだからさ。」
彼と私たちの間に、見えない大きな壁があるように感じてならない。もし、彼と数年早く出会えていたら、この壁もなかったのだろうか。彼は私たちと一緒に笑えていたのだろうか。
なんて、そんなの夢物語に過ぎない。
現実はいつも残酷だ。
「 貴方、どうして獅童なんかに協力してるの!?パレスの景色を見たでしょう。アイツの本性は… 」
「 …協力?何言ってんだよ。俺には、こんな国…どうでもいい。すべては、獅童正義に…父に、この俺を認めさせ、復讐するためだ。」
え…?
「 獅童が…父親!?」
「 前に教えてやったろ。俺の母親は、悪い男の愛人だったって。つまり『隠し子』さ。あの男にとって俺は、存在自体が醜聞…。母も、俺を生んだせいで不幸になって死んだ。『生まれる事を望まれなかった子供』ってわけさ。」
「 そんなこと…っ!」
そんなことを思いながら生きていたなんて。
全力で否定したかった。でも、何と声を掛ければいいかがわからない。何を言えば、彼の心が救われるのか、なんて。わからないよ。
「 恨み抜いたよ。けどヤツは、当時もう与党の都議サマで、子供じゃどうしようもなかった。けどさ…クク…そんな時だッ!」
彼の赤みを帯びた茶色の目が、さらに赤く見えた。彼のこんな狂気的な目を見るのは初めてで、心の奥が震えた。
「 知っちまったんだよ!『認知の異世界』ってやつをさ!神様だか悪魔だかが、チャンスをくれたんだ。笑いが止まらなかったね。」
「 …お前。」
121人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
すみれ(プロフ) - をしすさん» ありがとうございます!素敵と言って貰えるような作品に少しでもなっていたことを心から嬉しく思います。また描いていただいたイラストの素晴らしさを共有できて良かったです..!これからの展開も楽しんでいただけるように頑張りますので、楽しみにお待ちください♡ (11月4日 7時) (レス) @page50 id: 945d36a3b1 (このIDを非表示/違反報告)
をしす - (文字数に収まらなかったのでここで失礼します…長文失礼しました) (11月4日 4時) (レス) @page19 id: 79c0c3fdd7 (このIDを非表示/違反報告)
をしす - やっぱり好き…。すみれさんの書くお話はどれも素敵すぎて読み終えた時に不思議な高揚感があります!そんな時にむぎさん、めもりさん、まりりさんの激カワイラスト達を見たらいてもたってもいられずコメントさせていただきました!これからも応援しています。 (11月4日 4時) (レス) @page19 id: 79c0c3fdd7 (このIDを非表示/違反報告)
すみれ(プロフ) - もみじさん» ありがとうございます🥹久々のコメントがとても身に染みます…!オリジナルの部分を今回はかなり挟んだので、皆さんにどう思われるか少し不安でしたが、そう言っていただけてすごく嬉しいです。この先の展開も楽しんでいただけるように頑張ります! (9月11日 7時) (レス) id: 945d36a3b1 (このIDを非表示/違反報告)
もみじ(プロフ) - コメント失礼します。ずっと前からこの作品が大好きです!話の構成がとても上手で、特に『運命を変えろ』のお話はワクワクしっぱなしでした…!!獅童戦やその先の展開がすごく楽しみです。作者様のペースで更新頑張ってください。陰ながら応援しています! (9月11日 7時) (レス) id: be2598a382 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:すみれ | 作成日時:2023年8月19日 11時