狂い者よ、引き金を引け【d!】 (ページ5)

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女性とAはビル群の中へと潜り進み、気づけば廃棄区画手前の倉庫まで来ていた。

「来ないでよぉ…!もう私の色は…」

Aのドミネーターを通して視界に映る女性の色は濁った…現代で言うなれば『黒を混ぜたような暗い色』へと変わった紫に色相が変化しており、犯罪係数もまもなく300を突入する。

サイコハザードだ。
不健全な精神を持つ人間による影響で周囲の人間の精神状態を数値化したデータ『サイコパス』が悪化してしまう現象。
ウイルスと同じように、心の不安定は人から人は伝染していく。
その現象の悲惨さを知るAは彼女に声をかけた。

「もう男性は追ってませんよ」

やや高めの声。腹からではなく、喉から出すように意識して。
それだけで女性の犯罪係数の上昇は止まった。現在302、あと少し下げればドミネーターでも彼女を抹消することはない。

リング端末から読んだ情報で対象は警備ドローンから逃走時、通路を歩いていた女性を人質として拉致していた。
しかしその女性は逃走時、ラグジェリーと下着しか身につけていない。
雨が降っており気温が下がっている中で…ましてや人通りのある通路をラグジェリーのみで歩く者がこの時代にいるだろうか？

ここまで来れば誰だって察してしまうだろう。
籠城していた中で対象は犯罪係数が300を超え、シビュラシステムが執行を判断するようなことをおかした。
さらに突入して執行したメンバーも全員男性。追いかけていた2人のうち片方は男性である火爛。

犯罪係数の上昇は、男性への恐怖と抵抗によるものだとAは追跡中に理解した。
追いかけっこを行うなか、誰だって直進する鬼を目で追ってしまう。しかし音をガシャンバタンと立て猿のように飛び回る者も一緒にいたら、当然そちらにも目を動かし何か反応するだろう。

だが2人で追跡する中、女性は火爛しか見ていなかった。A1人で追いかけるようになってからは声を張って指示したのが聞こえていたのか、振り返る回数は減り逃げることに専念し始めている。

あとはAのことを女性と勘違いすれば、係数が止まることは明白だった。