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「大丈夫。落ち着いてください」
銃を床に置いてゆっくりと女性に近づく。
来ないで!女性の悲痛な叫び。
執行された対象が所持していたナイフを拾ったのか、Aの方に振り返って威嚇するように前に突き出している。
「"私"はあなたを助けに来ました。落ち着いて、もうあなたに苦しい思いをさせる人はいない」
大丈夫。
Aは彼女と目を合わせ、こう言った。
【雨は上がって、空に虹がかかったよ】
女性はナイフを地面に落とし、近づいたAに抱きつき涙を流した。
「少し、休みましょう」
女性を床に寝かせ、Aは後ろから近づく人影へと振り向く。
そこには、楽しそうに顔を綻ばせる黒綺と後ろでAが持っていた銃を拾う火爛が立っていた。
『対象の情報が更新されました 犯罪係数オーバー150 執行モード ノンリーサル パラライザー 慎重に照準を定め対象を制圧してください』
黒綺の脳内で音声が流れ、ドミネーターが青い光を放つ。
「ほお、これはたまげた。執行対象のはずだったのになぁ」
明らかに執行確実とされていた数値の半減。こんな事は過去のファイルでも見たことがないと黒綺はAへと銃口の先を変えた。
『犯罪係数アンダー20 刑事課 真衣A 登録監視官』
初仕事で犯罪係数は微動だにせず、かつサイコパスの改善。余計に面白いではないかと黒綺は目を光らせる。
「…銃を納めてください。この女性は既に気絶してますから、運ぶのを手伝っていただけると」
力仕事は幾分得意ではなくて。
お願いします。Aは頭を下げ女性に向き直りしゃがみ込んだ。
なんて不可思議な新人か。黒綺は倉庫に置かれたコンテナの上にいる三人へ視線を送る。
「すごいなぁあの子。ドミネーター使わずにかぁ」
「あれが卒業論文で書いてたアイコンタクトによるサイコパス安定化ってやつか」
「目を見て動揺を治すならまだしも…本当に犯罪係数下げれると……てあれ、シビュラが認めていない非公式」
「『真衣監視官、後日いま行ったことに関する報告書を書くように』」
赤い瞳の目尻は釣り上がっており報告書にどう書こうか迷っているのかもしれない。あぁどんまい桃瀬監視官。
「ほら、とっとと看護ドローンが来れるとこまで運ぼう」
「そうだな」
黒綺は喉を鳴らし気絶していた女性へと向かっていった。
_Case.1 終_
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作者名：あんべべ | 作成日時：2023年1月16日 4時
