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「私、夕陽を見ると切なくなるって言ったでしょ」
「うん……」
「その時のこと思い出すからです。1人ぼっちの影だけが伸びた景色を思い出すから」
両手を繋いでくれた二人はもう居ないんだと、胸が痛くなるから。
「それに、運命って言葉も大嫌いでした。私の両親は29歳で子供を残して死ぬ……“そういう運命でした”で片付けられたら……あんまりじゃないですか」
もしそれが運命だったとしたら、二人は何のために出会ったの。
どうして恋をしたの。
どうして私が産まれたの。
どうして二人を選んだの────神様。
そんな運命って言葉は、私の感覚が受け入れられなかった。
「でもね……」
今、此処に立って思うことは
あのときの二人の気持ち。
まだ幼い子供を残して逝かなければいけなかった二人の気持ちは、どれほどだっただろう。
ランドセルを背負って学校へ行くことを楽しみにしていたのは、私だけじゃない。
“小学校入学おめでとう。
ランドセル似合ってますか?
どんなお姉さんになってますか?”
二人も、心待にしていた。
「私、自分の気持ちばっかりで……父と母の気持ち、考えてなかった」
助かった我が子が、今もあの朝に囚われながら生きてること
両親が亡くなった歳を越えることに、不安を覚えてること
家族を作ることに、後ろ向きなこと
この場所に、怖くて来られなかったこと
空からそんな私の姿を見ている二人は、どんなに辛いだろう────
私は持っている色紙を裏返した。
「これ……私の手と足ですすよね」
「うん」
優しく頷いた隆二さんから、色紙へと視線を戻す。
「小さい……」
色紙に収まるサイズの、小さな小さな手形と足形。
この小さな手は、父と母に触れた手。
紅葉みたいなその手形に、
私は静かに自分の手を重ねてみた。
もう、触れることが出来ないと思っていた父と母の手に
私は今、触れている。
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作者名:ぽち。 | 作成日時:2019年2月5日 20時