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「私、此処に来たら父と母に叱られるような気がして、だから怖くて来られませんでした」

何も出来なかった自分を叱られる気がして。

「そんな訳ないのに……」

傷付くこと、恐れること。

何となく避けていたその感情も、口に出してみると一体何に傷付いて何が怖いのか、見えてくる。

もっと、早く……来れば良かった。

「お父さん、お母さん……ごめんね。会いに来られなくて……ごめんね」

うつ向いた弾みに、涙があふれて

私は全ての悲しみを自分の中から追い出すように、わんわん泣きました。

施設に入ったばかりの頃、父と母を思って真夜中に発作のように大泣きしてしまうことがあったけれど

あのときと同じように、肺から空気がなくなってしまうんじゃないかと言うくらい、私は泣き続けました。

「大丈夫、大丈夫」

いつも胸の中で自分に言い聞かせてきた言葉を、隆二さんの声で聞いて

「もう……大丈夫」

私は、また泣きました。

私は、私の悲しみから許されて泣いたのです。

隆二さんはそんな私を見ても驚きもせず、ただ黙って、周りから私を隠すように抱き締めてくれました。

とても優しい抱擁。

私の心に波紋ひとつ立てない、静かで優しい腕の中。

その優しさが、終わりのない海みたいに、果てのない宇宙みたいに私を包んでいきます。

もう、戻れない朝
もう、戻れない場所

そこを“一緒に越えよう”と繋いでくれた手のぬくもり。

もし、私に起こった悲しいことの全てが隆二さんに繋がるためだったんだとしたら

私はやっと、それを“運命”として受け入れられる。

そう思いました。