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拝啓 山田A様




突然お手紙を差し上げます失礼をお許し下さい。



当院の名前を覚えてくださっていればと微かな望みを込め、筆を執りました。



山田様がご存じかは分かりませんが、山田様のお母様は28年前、当院で出産なさいました。




当院では退院前にご両親にお子さま宛に手紙を書いていただき、小学校に入学する年に、その手紙をお子さまへ贈ることになっております。



山田様にもそのお手紙を贈るご用意をしておりましたが、その年に起こったのがあの震災でございました。



当院で生まれ、あの年に入学予定だったお子さまは13名。




方々連絡を取り、12名のお子さまには届けることが出来ましたが、唯一山田様の居所だけが分かりませんでした。



ご自宅の辺りが焼失したこと、ご両親が亡くなられたことは知ることが出来ましたが、それ以上のことは力不足で調べようがございませんでした。



しかし先日、偶然開いた医学誌で山田様のお名前を見つけ、驚きました。



同姓同名の方かと思いましたが、記載されていた生年月日と出身地で、あの女の子だと確信いたしました。



小児病院の設計に纏わる話を拝読し、ご立派に成長されていることに安堵すると同時に、渡せず終いになっているお手紙をお届けしなければと今回このような形で連絡を差し上げた次第です。




随分時間がかかってしまいましたが、同封いたしました色紙を受け取って下されば幸いです。





気候不順の折からくれぐれもご自愛くださいますようお祈り申し上げます。









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「手紙……」









暗闇の中の秒針が、









少し動こうとしていた。

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作者名:ぽち。 | 作成日時:2019年2月5日 20時

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