私の知らないあなた。 ページ36
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あの封筒をシワにならないようにバッグに丁寧にしまい、私は仕事が終わってから純奈と連れ立って飲み会のある東山のお店を訪れた。
隆二さんは先にお店に来ていて、先輩たちと何か話している。
アイコンタクトのように二人で目配せしたあと、隆二さんは私に微笑んだ。
変な空気は引き摺らずに済んだと、私は胸を撫で下ろす。
「Aちゃん」
声をかけられ振り向くと、そこに臣くんが居た。
「臣くん！こんばんは！」
「こんばんはー。今日はお友達と一緒？」
「はい、同じ会社に勤めてる純奈です。純奈の彼もこちらの業界の人で」
「あ、そうなの！？」
純奈と臣くんはお互いにペコペコ会釈をしている。
「そー言えばバリどうだったー？楽しかった？」
「はい！凄く楽しかったです」
「そうなんだぁ……向こうで日本人観光客に写真撮られて週刊誌に売られれば良かったのに」
─────テメェ、コノヤロウ。
今の発言酷くない？と純奈を見たら、明らかに笑いを堪えてる顔をしていた。
「あの、じゃあ私たちはあそこの隅っこで飲んでます……」
「楽しんでねー！」
さっきの発言で２割くらい楽しめなくなったと思いながら、私は純奈と隅っこのテーブル席に腰を下ろした。
イチゴを使ったお酒を注文して乾杯したあと、純奈が少し、体をこちらに近付けた。
「さっき言ってた手紙のこと」
「あ、うん。何か、中身見るの迷ってて……」
父と母のことを思い出すのは悲しくなくなった。
でも、その思い出に直接触れてしまうことにはまだ躊躇いがある。
無力だった幼い自分と対峙することが怖い。
「ねぇ、それこそ右の人と一緒なら大丈夫じゃない？」
「……何か、凄く泣いちゃいそうで。そういう姿、見られたくなくて」
「気持ちは分かる。凄く分かる」
「うん……」
「でも、Aのそういう姿も受け入れてくれるんじゃないかな？」
「うん……」
そのとき、純奈が遠くに向かって手を振った。
そちらの方に顔を向けると、健太郎くんが立っている。
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作者名：ぽち。
| 作成日時：2019年2月5日 20時
